あらすじ
治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが……。
監督:是枝裕和
キャスト:リリー・フランキー,安藤サクラ,樹木希林
以前百貨店で警備員をやっていた時にリアル万引き家族がいた。
引き継ぎの日誌の連絡事項に、防犯カメラの写真が貼ってあって、「万引きの疑いアリ、見かけたら要注意!」の指示が出ていた。
40代くらいの夫婦と中学生くらいの娘の3人。
夫の方はいかにも喧嘩が強そうないかつい顔付きで商品を物色し、妻の方は世の中に対する不満を額に張り付けたような剣幕で周囲を警戒していた。
そんな二人に連れられた娘の方はスリルのある状況を楽しんでいるような笑顔を見せ、善悪の判断を完全に両親に委ねていた。
あくまでも写真から判断した僕の偏見だけど、パッと見いかにも万引きしそうな連中という印象だった。
報告によると、3人は百貨店以外のスーパーでも目撃されている万引き常習犯で、週に何度か百貨店に来店しているとの事だった。
幸い僕が勤務の時は来た事がなかったけど、僕は毎回売り場を巡回しながら、この万引き家族にだけは遭遇したくないな、といつも思っていた。
どんな事情があってこの家族が万引きをしているのかは知らないけど、僕は社会に背を向けて生きているこの家族が正直怖かった。
だからもし店内で見かけても知らないふりをするつもりでいた。
社会に背を向けた家族3人。
彼らはその最小単位の集団で生きていく覚悟を決めた人たちだ。
彼らにとって頼れるのは家族だけだから、その絆の強さは半端なものではないだろう。
「家族で生きていくためならなんでもやったるぞ!」
そんな気迫が3人から漲っているような気がした。
だから僕は職場で会う程度の僕ら警備員の希薄な絆では到底太刀打ち出来そうにないな、と常に思っていたのだ。
世の中にはいろんな家族がいるけど、僕はこの万引き家族を前にして、愛とか情とかの結びつきを飛び越えたところにある、もっと強い絆で繋がった生存戦略みたいなものが家族なのかな?と考えさせられ、社会的には歪であるはずのこの万引き家族が羨ましくなった。
三銃士じゃないけど、みんなは1人のために1人はみんなのために万引きして生計を立てている。
社会には機能していないけど、この世界で生きていくためにちゃんと家族として機能している。
こういう家族はきっと強い。
調子に乗って迂闊に捕まえようとすれば、開き直って逆上した3人の死に物狂いの抵抗にあって一巻の終わり。
そんな事にもなりかねない。
逆に社会に対して機能しようとしている家族は、家族の事で世間体を気にするあまり、一つ屋根の下でみんなバラバラに解体され、生きていくための家族として機能していない弱さを感じさせる。
家族として機能しているのであれば、その形は別に社会的に歪なものであってもいいのではないか?
家族としてやっていくなら一緒に生存していく覚悟を決めた2人、3人でありたいな、と『万引き家族』を観て思う。
社会より家族。
妻や娘、息子がたとえ人殺しであっても彼らの味方をしてやれる夫や父親でなければ、僕が家族を作る意味などないかもしれない。
この最小単位さえ疎かにしなかったら、人生はなんとでもなるような気がした。