芸術

映画『リリィシュシュのすべて』視覚的自傷行為

投稿日:2019-07-10 更新日:

あらすじ

中学生になった蓮見雄一は同じクラスの優等生・星野修介と仲良くなる。夏休み、2人はほかの仲間たちと西表島へ旅行に行く。しかし、旅行から戻った星野は変質し、番長を倒し自らその座に収まり、蓮見はいじめの対象になっていく……。

監督:岩井俊二

キャスト:市原隼人,忍成修吾,伊藤歩

この映画を観る度に、僕は主人公の蓮見と自分を重ね合わせる。

主人公の蓮見と僕には同じトラウマがあるというか、蓮見を通して自分の思春期をもう一度見せられているような映画だ。

ごくたまに自分によく似た物語に出会う事があるけど、そういう物語は必ず心を抉ってくる。

中学の時、僕も蓮見と同じ剣道部だった。

蓮見は中学からだけど、僕は小学校の時にイジメを受けていた。

イジメの対象は僕だけでなく、クラスの権力者に目をつけられた者はみんなそのグループにイジメられた。

だからイジメを受けつつ、仲間に加えられる時もある。

イジメの主犯格であった同級生は奇しくも星野と名前が一緒で、学年でトップクラスの優等生だった。

友達だった時期もあったけど、彼の何かが壊れると、僕たちの関係性も変わった。

映画でも蓮見と星野の関係性が僕たちのように変わる。

ただ二人の関係を唯一繋ぐものとして、物語の中には実体が不明な「リリィシュシュ」というアーティストが存在する。

リリィは誰とも共有出来ない個人的な痛みや孤独、虚無感みたいなものを、“エーテル”という不可視の物質、あるいは概念で繋ぐ。

シャーマンのような存在でもあり、電気信号として“エーテル”を繋ぐハブのような無機質な存在にも思える不思議なアーティスト。

リリィはファンたちの不協和音に共鳴して、それを協和音に昇華するアーティスト。

エーテルを音楽にした人。

僕の思春期にもリリィみたいな拠り所が必要だったけど、リリィのように神格化されたアーティストはいなかった。

でも思春期に出会った音楽には僕も救われた。

岩井俊二監督の作品は映画というより、どれも長編の音楽PVを観ているような感覚がある。

特にこの「リリィシュシュのすべて」は、映画自体がリリィの音楽PVみたいな感じがして、陰鬱とした内容ではあるけど、バラードを聴いている時のような癒しと心地良さがある。

田園と鉄塔の風景がすごく印象に残る音楽PV。

観終わった頃には抉られた傷も不思議と回復している。

それはリリィ同様に岩井俊二監督もまた“エーテル”という不可視なものを表現出来る人だからなのかもしれない。

僕はこの映画の影響かは分からないけど、ずっと沖縄に行きたいと思っていて、以前縁あって沖縄の西表島に1年半くらい住んでいた。

物語では蓮見と星野も夏休みの旅行でこの島を訪れる。

僕も西表島からアラグスクを見た。

物語は星野がこの島で“死”を体験してから暗転する。

“死”をきっかけに星野は変わってしまった。

夏休みが終わって登校すると、何人か雰囲気とか様子が変わっている同級生が僕の時も確かにいた。

僕自身も何かしら変わっていたのかもしれないけど、生死を彷徨うような体験をした人間は、もっと劇的に変わる。

臨死体験レベルになれば、自分がもう一度生まれ変わり、世界も変わったように思えるくらい劇的な変化をその人に齎す。

僕も鳥取砂丘で野垂れ死にしそうになった時、自分自身に劇的な変化が起きる体験をした。

僕はその時命の重さを感じたけど、星野は命を軽く感じてしまったのかもしれない。

そして夏休み明けから蓮見と星野の関係性も変わる。

それでも蓮見が作ったリリィのファンサイトを通して二人はまだ繋がっていた。

物語はリリィが繋いでいた二人の関係性を蓮見が完全に断ち切る事で幕を閉じる。

方法は違えど、僕も彼との関係を断ち切った。

断ち切る時に瞬間的な痛みはあったけど、時間が経てばいずれ傷は回復する。

傷が癒えた僕は機会さえあればまた彼に会えるけど、蓮見は傷が回復してももう星野には会えない。

原作の小説も面白いのでぜひ読んでほしい物語だ。







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