あらすじ
とある田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、クラスの中では地味で目立たないものの、映画に対する情熱が人一倍強い人物だった。そんな彼の学校の生徒たちは、金曜日の放課後、いつもと変わらず部活に励み、一方暇を持て余す帰宅部がバスケに興じるなど、それぞれの日常を過ごしていた。ある日、学校で一番人気があるバレー部のキャプテン桐島が退部。それをきっかけに、各部やクラスの人間関係に動揺が広がり始めていく。
監督:吉田大八
キャスト:神木隆之介,橋本愛,東出昌大
高校の時、僕は部活をやっていなかった。
卓球部に入部してすぐにやめ、その後写真部に籍だけ置いていた。
写真部の活動は学校行事がある時だけカメラで写真を取るくらいだった。
それ以外は友だちとすぐに下校して遊んでいた。
僕はそもそも高校に入るつもりがなかった。
中学を卒業したらすぐに専門学校に入って絵を描こうと思っていた。
「高校くらいは出とけ」
両親にそう反対されたから入っただけの事で、僕にとって高校の三年間は別になくてもよかった。
そんな僕にとって「桐島が部活をやめる!」と騒ぐこの映画のテンションがひどく滑稽に思えた。
登場人物の全員に自分の同級生たちの顔をうまく当てはめる事が出来るけど、「桐島」みたいな同級生だけはいなかった。
映画でも肝心の桐島は不在の状態で物語の中にいる。
勉強、スポーツ優秀。イケメン。
人望があるクラスの人気者。
桐島はスクールカーストの頂点にいるような存在。
でも実際はどこの学校にも見当たらない稀有な存在だと思う。
宏樹みたいなリア充は僕の同級生にも思い当たるのがいる。
桐島はカーストの頂点でリア充でありながら、なぜか宏樹たちみたいな嫌味な感じがしない。
カーストの下層にいるような前田タイプの人間にも、その他大勢の人間にも尊敬の眼差しで見られている。
断片的にしか入って来ない桐島に関する情報から、そんな印象を受けた。
時折桐島の視点から他のみんなを眺めているようなカットが入るけど、その時の桐島はぼんやりとした亡霊のような希薄ささえ感じさせた。
桐島が部活をやめる理由は誰も知らない。
親友の宏樹も、彼女の梨沙も知らない。
大注目を浴びているのに透明な存在。
桐島みたいな人間は、どこの学校を探してもおそらくいないだろう。
誰にも当てはまらない唯一の人物として「桐島」は物語の中にだけいる。
桐島が部活をやめる事には大した意味なんてない。
僕が高校に入るつもりがなかった事を他の誰も知らないのと同じくらいどうでもいい事だ。
どうでもいいから誰にも言っていないし、言う必要さえなかった。
そのせいか僕の高校生活もどこか希薄で、思い出らしい思い出が特にない。
とにかく記憶が乏しくて、桐島が僕に感じさせた希薄さは、そんな僕の投影でしかないのかもしれないけど、僕もその頃は不在の存在だったのだ。
ただ唯一覚えているのは友だちと映画を撮った事。
前田たちはゾンビ映画を撮っていたけど、僕もプライベートでホラー映画を撮った。
部活をやっていない暇な友だちとつるんで、友だちの家から勝手に拝借したビデオカメラを使い、僕が監督とカメラマンをやった。
10分もない短いホラー映画。
ど素人が集まって、金も編集機材もなく中古のカメラだけで撮った作品。
当然出来は酷かったけど、撮影してる時はみんな面白がってくれた。
仲間内だけで上映して、ケラケラ笑い合った。
「桐島が学校に来てる!」
そう言ってみんなが走っていったラストシーンの屋上にも桐島はいなかった。
でも映画を撮った思い出がある僕は、前田と同化して屋上にいた。
他の同級生にとっては「そういえばいたね、そんなヤツ」くらいの存在かもしれないけど、この映画を観たら、僕は自分で思うほど不在の存在ではなかったと、当時の事を確かに思い出したのだ。