芸術

映画『バトルロワイアル』 誰もが了承している殺人の不文律

投稿日:2019-09-09 更新日:

あらすじ

大不況に見舞われ、失業者が全国にあふれる一方、学校では不登校生徒が増大、少年犯罪も多発、少年に対する大人たちの怒りが爆発、こうした国民世論を背景に強力な生存能力を備えた青年の養成と、強い大人の復権を目的とした“新世紀教育改革法”通称BR法が公布された。それは全国の中学3年生の中から無作為に選ばれた1クラスを、最後の1人になるまで殺し合わせるというあまりにも過酷で理不尽なものだった……。

監督:深作欣二

キャスト:藤原達也,前田亜季,山本太郎

みんな誰しも一度くらいは「人を殺したい」と思った事があると思う。

でも実際に殺人を実行する人はほとんどいなくて、出来ないと思っている。

殺人を犯せば法で裁かれて罪に問われるし、なにより人間には良心の呵責があるから、それが歯止めになる。

でもこの映画『バトルロワイアル』のような状況下だったらどうだろう?

法が殺人を認め、他人を殺さなければ自分も死ぬというルールを個人に課した時、人はわりと簡単に人を殺す事が出来るのではないか?

現実的にはありえない設定の物語ではあるけど、そのありえない設定が実際に自分の身に降りかかったらどうなるか?と想像した時に、自分の本音や意外な一面に気づかされたりする事がある。

特殊な環境とルールが殺人を犯すハードルをグッと下げ、良心の呵責さえも消してしまうかもしれない。

そういう想像の中に身を置くと、自分自身についてもっと深く知る事が出来る。

おそらくバトルロワイアルのような状況で僕たちが陥るリアルな心境は、クラスメイトに対する疑念といつ襲われるかわからない恐怖感で満ちている。

クラスメイトに対する自分の本音が明確になり、仲良しだと思っていたグループがあっさりと解体され、自分が所属していたコミュニティが個人の損得勘定と思惑だけで成り立った薄い絆の共同体である事が突き付けられたりするのだ。

だから所属するコミュニティを持たない者や、自分が望まないコミュニティに所属していた者ほど、この殺人ゲームに乗り気で参戦する事が出来る。

何の関係もない川田や桐山みたいな他校の転校生であれば、なおさら殺さない理由がない。

彼らと条件が同じなら自分が喜々として人を殺せるようなサイコパス気質の人間である事に気づいてしまう人もいるだろう。

七原と中川のような恋人同士で生き延びる展開は夢物語だ。

自分の命を犠牲にして仲間を守る川田みたいな人徳者など滅多にいるものじゃない。

映画の中にいる友情に熱いクラスメイトたちは、物語の都合上存在しているだけで、ほとんどの人にとってリアルなクラスメイトは敵にしかならないだろう。

実際にBR法が施行されたら、自分の命のためにただ仲間と殺し合う悲惨な現実を目の当たりにするはずだ。

僕も映画を観ながら、かつてのクラスメイトたちの顔を思い浮かべて、僕との利害関係や情緒的な結びつきみたいなものをリアルに思い出してみた。

それを考慮した結果、僕には殺すのに躊躇する友達が何人かいるくらいで、やはり自分の命が優先となれば一人残らず殺せる覚悟と理由があった。

一緒に協力してこのゲームから脱出する仲間は残念ながらいない。

そんな脆い絆とコミュニティでも平常時であればそれなりに楽しくて、それなりに居心地が良かったりする。

平常時であれば滅多に人を殺したいとも思わない。

たとえ思ったとしてもすぐに我に返って歯止めがかかる。

しかし一度何か大きな有事や災害が起これば、人は途端に先祖がえりして本能のままに生存活動を始めるものだ。

有事や災害を前にした時、人は自分が生きている現実世界が虚構の集積である事に気づく。

学校、会社、地域、宗教……。

個人は自分が所属するそれぞれの集団や組織が持つ共同幻想の中で暮らしていて、その入り組んだ虚構が提示する安心や平和を信じているから、まともに生きていく事が出来る。

映画『バトルロワイアル』のような特殊な状況は、そんなまともな社会人を自負する人の中にも潜在的な殺人者がいる事を浮き彫りにする。

人を殺したい、でも殺せない……

何かとストレスの多い現代において、まともな社会人でもリアルな内面は常にそんな感じで殺伐としていると思う。

虚構の日常を生きている僕たちには殺人に対するそんな不文律みたいなものがあって、何食わぬ顔をしていても本能はそれを常に了承しているのだ。

損得勘定も利害関係もない愛とか友情の方が本当はおかしな感情なのかもしれない。

それでも映画のような仲間が出来たらいいな、とは思うし、たとえ偽善でも出来れば川田みたいに死ねたらカッコいいよな、と思う。







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