あらすじ
不穏な社会。宗教を盲信する家族。父親の性的虐待。私は自分も、この世界も、誰かに殺して欲しいのだった――。酒鬼薔薇世代がくぐり抜けた「あの頃」を見つめ直す半自伝的90年代クロニクル。
原作:ふみふみこ
愛と呪い。
すごく重いタイトルだなと思い、気になって読んでみた。
全3巻。
「氏より育ち」という言葉があるけど、僕は人間が生まれ持って来た資質よりも、どんな環境で生まれ育ったかによって、その人の人生は概ね決まると思っている。
主人公の愛子は新興宗教を信仰する家族の下に生まれ、父親から性的虐待を受けている。
この環境でまともな人生を歩むのはとても難しい。
生きている事だけで精一杯。
そんな苦しみばかりが続く彼女の人生は必然で、僕の人生なんかは彼女と比べて単純に運が良かっただけなのだと思った。
彼女は世間を知るまで、これが当たり前の家族の在り方で、そんな家族に抵抗を感じる自分はどこかおかしいと思っていた。
祖母や母親や父親の小言は、自分に対する愛情ゆえであると理解はしているものの、受け取れない愛子にとっては呪いでしかなく、世界が滅びるか、家族を殺すか、それとも自分の命を絶つか?
そのいずれかの選択肢の中でしか、自分の未来を思い描けなくなっていた。
思い返せば僕も、ノストラダムスの大予言を信じていて、「どうせ世界は滅びるのだから」という、諦念の中で思春期を送っていた。
でも本当は、父親のような大人になれなければ、自分みたいな人間はきっと生きていけない。
そんな強迫観念が当時あった。
自分の性格上、どうしても父親のような大人になれる気がしなかったから、なれないのであれば「ノストラダムスでも何でもいいから世界なんて滅びればいい」と思っていたんだろう。
世間一般的な家庭に生まれて育ち、愛子ほど過酷な環境ではなかったけど、この物語は他人事ではなかった。
僕は今カウンセリングの勉強をしていて、相手の悩みを聴き、共感し、ただ受容して、つまづきがどこにあるか?を分析して、仮説を立て、ゴールを想定して導く方法などを学んでいる。
学んだ分自信もつくけど、学んだ分取り扱う悩みのレベルも高くなって来るのか?と、すごくプレッシャーを感じ、不安になってきたりもする。
愛子をクライアントに見立てて読み進めたりすると、終わりのない学びの場に足を踏み入れてしまったな、という実感があり、途方に暮れる。
実績があるベテラン講師の先生なんかもカウンセリング行為に無力を感じる時があるらしく、こういう物語を書く方が、もっと効率良く多くの人を救えるのかもしれないな、と思ったりもした。
人に知られたら生きてはいけないような事を物語にする事によって、誰よりも作者が救われている。
そして同じ境遇や心境で生きてきた読者たちがついでに救われる。
この物語を漫画にするのは本当に大変だったろうと思う。
でも面白かった。