哲学・思想 芸術

アニメ『鬼滅の刃無限列車編』僕が泣く理由

投稿日:2020-10-31 更新日:

あらすじ

蝶屋敷での修業を終えた“鬼殺隊”の竈門炭治郎は、短期間で40人以上が行方不明になった“無限列車”を捜索する任務に就く。妹の竈門禰豆子を連れた炭治郎と我妻善逸、嘴平伊之助は、鬼殺隊最強の剣士“柱”のひとりである炎柱の煉獄杏寿郎と合流し、闇を進む無限列車の中で鬼を相手に戦い始める。

監督:外崎春雄

原作:吾峠呼世晴

キャスト:花江夏樹 日野聡

どうしても語りたいアニメがまた出来た。

僕は社会現象とか流行をあまり追わないタイプだけど、知り合いやSNSなどの「泣ける!」という反響を見聞きしているうちに、すごくこの作品が気になって、とりあえずアニメからこの物語の世界に入った。

公開されているアニメを全話視聴し、続きをマンガの単行本で読み進めているうちに確かに感情の赴くまま何度か泣いた。

僕は普段、どこか感情を押し殺すように生きてしまっている。

ここ何年か日常生活の中で何かに感動して泣くという事がめっきり無かった。

慢性的な孤独感に耐えるには、感情の起伏などはあまりない方がいいと思っているところがある。

「愛」という概念を実感する事もなく生きて来たので、このまま人を愛する事も、愛される事もないのなら、自分のやりたい事ややるべき事にだけ目を向けて、淡々とそれを消化するような人生がいいとずっと思って来た。

でも本当は誰かを愛したり、誰かから愛されたりして、喜怒哀楽に富んだ毎日を送りたいとも、心のどこかで思ってはいる。

『鬼滅の刃』の物語は、そうした僕の抑圧した願望に強く訴えかけて来る。

僕はこの物語に触れて泣いたのではなく、抑圧した願望を殺し続ける「泣きたい自分」をこの物語に投影して泣いたんだと思う。

この物語に登場する「鬼」たちは親の愛を得られず、世界から祝福されなかった者たちの成れの果てだ。

傷つけられたから傷つけ返す」という正論が罷り通るような残酷な世界を生きている。

鬼に傷つけられた者もまた鬼になり、その鬼を狩る鬼殺隊の剣士たちも、鬼に親兄弟、親友を殺されて傷つきながら、誰かを守るために奮闘する。

人も鬼も過酷で悲しい過去背負っているにも関わらず、両者には落ち切る者と踏みとどまる者の明確な線が引かれていて、僕たちは潜在的に「その違いが何か?」を既に知ってはいるものの、この物語を通して改めて考えさせられる。

愛着障害。

共存共栄を目指しつつ、未だ弱肉強食の本能に足元を掬われてしまう現代社会のあらゆる問題の根本には、親との愛着関係がうまくいかなったこの問題が横たわっている気がする。

親との愛着関係がいかに大事なものであるかは、本作に登場する炎柱「煉獄杏寿郎」が見せる強さや生き様の凄さが証明している。

僕は素直にそれを認める事が出来たけど、「たかがアニメの話だろ」と嘲笑う人たちですら、潜在的に愛着の影響を受けて生きている。

表面では強がっても、一人きりの時に泣いて、自分の心の中にいる「鬼」と戦っているかもしれない。

弱者を笑ったり、弱者から搾取する者は強者ではなく、同じく弱者である事にこのアニメを通して気付いたりする。

煉獄さんのように母親と強固な絆で結ばれ、安定した愛着スタイルを身に着けた人間が本当の強者だ。

柱までのし上がった煉獄さんは、先代の柱である父親から剣士としての才能を認められなかったけど、母親から伝えられた「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」という言葉を守り、揺るぎない意志と絶え間ない努力で才能を開花させた。

俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!

そう言って乗客200人の命を救い、後輩である剣士たちを守った煉獄さんの勇姿を見た時、僕は以前起きた東海道新幹線の殺傷事件をふと思い出した。

あの事件の時、梅田耕太郎さんという方が、通り魔の凶刃から同じ乗客である女性を庇って亡くなった。

梅田さんの経歴を見てみると、東大という難関校を突破してBASFジャパンという会社に勤めている優秀な人だと分かった。

人当たりも良く、会社からの人望も厚い。

きっと煉獄さんのように絶え間ない努力を重ねて生きて来た人だったんだと思う。

反対に凶刃を振るった容疑者の小島一朗さんは、その経歴の中に親に捨てられた過去を持っている。

煉獄さんと上弦の鬼である猗窩座(あかざ)の価値基準の違いをこの二人にも感じる。

無抵抗で60箇所以上刺されるという悲惨な結果になってしまったけど、梅田さんのその勇気ある行動の源には、安定した愛着スタイルを身に着けた人の、他人への強い思いやりや優しさが確かにあったと思う。

『鬼滅の刃』は残酷描写が多く、小さい子供には悪影響があるんじゃないか?という指摘もあったりするけど、愛着障害を抱えた人たちが増えた現実社会では、東海道新幹線のような痛ましい事件が容易に起こり得る。

僕は鬼滅の刃で描かれる残酷描写は、そんな現実の転写である意味を含めた教訓的な残酷描写だと思うから、それが子供にとって悪影響になるかどうかは親次第で決まるような気がしている。

弱肉強食の本能がある限り、人間の無意識の中には生得的に他人や他の生き物に対する加害性や嗜虐性を当然の事として認めている部分があるはずだ。

そこから目を潰り、初めから無いものにする事は出来ない。

子供だからといって、アニメやマンガの残酷描写が持つ意味を理解していないと思う大人の勘違いの方がむしろ問題だと思う。

子供が残酷描写に不安や恐怖を感じるのであれば、それはきちんと理性が育っている正常な反応だと言える。

全ては安定した愛着関係の中で、親がうろたえずに子供に他人への思いやりや優しさをしっかり教え諭せばいいのだと、思う。

とにかく僕を含め、現代社会には愛されたくても愛されないと感じている人がたくさんいて、愛したくても愛せないと感じている人もたくさんいる。

『鬼滅の刃』を観て素直に泣けるという事は、この殺伐とした時代にあって、愛着の問題を抱えながらもまだ自分が鬼になり切らず、なんとか人として踏みとどまっている幸いな知らせなのかもしれない。

劇場で一緒に涙する人たちを見て、僕は「人も社会もまだ大丈夫かもしれない」という、安心感を確かに覚えた。







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