哲学・思想

不倫、ありがとう

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有名人が不倫すると、マスコミと世間に叩かれるけど、そんなものは当事者同士の価値観で話し合って善悪を決めるしかないと思う。
少なくとも裁いていいのは不倫された当事者だけだ。
ぼくは亡くなった祖父の不倫のおかげで、この世に生まれて来る事になったから、不倫に関しては善も悪もない複雑な思いがある。
僕の祖父は地元の地主だった人で、僕が生まれた頃には既に没落していたけど、蔵のある大きな屋敷に住んでいた。
その屋敷から毎日僕の実家に通って日中を過ごし、夜は屋敷の家に帰って行く。
それが当たり前だったから、小さい頃は自分の家族が抱えている大人の事情を一切知らなかった。
ある程度の年齢になり、他所の家庭の事情と僕の家庭の事情を比較しているうちに、僕の祖父と祖母は正式な夫婦ではなく、若い頃に不倫してそのまま連れ添っている関係である事が分かった。
代々地主だった祖父は地元の有力者だったからか、二人の不倫関係に関しては街の人たちの間では暗黙の了解になっていて、世間一般的な不倫ほど後ろめたい様子はなかった。
屋敷も僕の実家もごく普通に親戚付き合いをしていたし、妾の子である僕の父親と屋敷の異母兄弟たちの仲も良好だった。
ただ屋敷で執り行った祖父の葬儀に祖母は参列しなかったので、当事者たちの心境まではよく分からない。
僕が生まれた時に祖父の本妻はもう既に亡くなっていた。
屋敷には祖父と叔母(本妻の息子の妻)と孫(従兄)の3人だけで住んでいた。
本妻の息子である叔父は、事業で失敗して借金を作って若い頃に家を出ていた。
屋敷の叔母は看護婦の仕事をしていたから、日中は僕の実家の方で祖父を預かる事にしたらしい。
僕の父親か屋敷の叔母が車で祖父を送り迎えしていた。
祖父と祖母が関係を持ったのは、祖母が地元の旅館で女中をしていた時で、祖父がよくその旅館の座敷で酒を飲み、いつしか懇ろの仲になったようだった。
そういう話は祖母がよく酒を飲みながら話してくれた。横溝正史の金田一シリーズを観ている時の祖母は、映画で繰り広げられる陰惨な愛憎劇に触発されて、つい若い頃の祖父への愚痴が多くなる。
ろくでねぇ爺さんだった。オメはあげなんなよ」と、祖母によく言われたのを憶えている。当時は相当肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。
旅館の近くに、鯉が泳いでいる小さな堰があり、祖母はそこの桜の木の下でよく祖父を待っていた。
街灯もない真っ暗な木の下で待つのはとても心細かったらしく、たまに白い着物を着た人が先にぼんやりと木の下に立っている事もあったようだ。
祖母は幽霊が見える人だったから、そういう時は大きい声を出して、その人か何かわからない者を追い払ってから、祖父が出て来るのをずっと待っていた。
そのうちお腹の中に僕の父親を身籠ったので、祖父が祖母に小さな家を建て、祖母がその家で食堂をやりながら、女手一つで僕の父親を育てた。
その姿を見て育った僕の父親は、すごく真面目で親孝行な人だ。
母親の苦労を知っているから「自分は将来絶対に不倫はしない!」と誓って、僕の母親と結婚した。
その約束はきちんと守られて、本当に母親一筋だったから、他所の家が離婚しても、僕の家は絶対に大丈夫だ、という安心感が子供ながらに確かにあった。
父親の強い意志は兄にもしっかり受け継がれて、兄も円満な家庭を築いている。
僕の父親と違って、屋敷の叔父は、祖父そっくりの道楽者で浮気性な人で、祖父の血に抗えなかったのか、叔母の他にも女性と関係を持ってしまったらしい。
ある意味祖父の屋敷は不倫で没落してしまったと言ってもいいのかもしれない。
不倫はたとえ本能的なものであったとしても、現代の幸福にとっては合理的なものではないからしない方がいいんだろうけど、僕に祖父の血に抗う意志があるかどうかは疑わしい。
ただ祖父が不倫という非合理な過ちを犯さなければ僕は生まれてないから、祖父の不倫には感謝しなければいけない。
祖父も祖母も本妻も、みんなあの世に行ってしまった。

あの世で3人は修羅場かもしれないけど、「爺ちゃん、婆ちゃんと不倫してくれてありがとう!







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