芸術

アニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』最新版エディプスコンプレックス

投稿日:2021-03-17 更新日:

あらすじ

南極が消滅し、海を真っ赤に染めた未曾有の大災害「セカンドインパクト」。地球全土を襲ったその天変地異から10数年の月日が流れ、人類は「使徒」と呼ばれる新たな脅威に直面していました。国連直属の特務機関NERV(ネルフ)はヒト型決戦兵器エヴァンゲリオンで使徒に対抗しますが、そこにはNERV上層部による隠れた計画がありました……。

原作・脚本/庵野秀明

僕は「エヴァンゲリオン」のTVシリーズをリアルタイムで観ていない。
え!エヴァ観てないの?マジで?絶対観て欲しい!
知り合いにそう攻め立てられ、初めて観たのは20代半ばくらいだったと思う。
ガンダムに次ぐ国民的ロボットアニメ。
そんな印象しかない状態で観始めたら、とにかくストーリーが難解で物語のテーマが掴めない。
それでもなんとか「Congratulation!!」と、みんなで手を叩く謎のオチまで完走したけど、正直途中で飽きたりもした。
ただ岡本太郎の「明日の神話」を彷彿とさせる使徒のフォルムや、アスリートの様相に近いエヴァの生物的なフォルム。
それに搭乗する性的魅力に溢れるキャラとその心情描写。
聖書の神話をなぞる大破局的世界観には面白味を感じた。
そして思春期の時に観ていればもっとハマっていたかもしれないという後悔のようなものもあった。
エヴァがリアルタイムでテレビ放映されていた時、僕は高校生だった。
世間的にアニメを観るヤツは幼稚だという風潮が当時はまだあり、エヴァはオタクの人たちが隠れキリシタンのような気持ちでひっそりと楽しむ迫害されたアニメだった。
そんな過酷な環境下でエヴァに触れた人たちの熱量はかなりのもので、主人公の碇シンジと完全にシンクロしているようなハマり方だった。
綾波レイ及び惣流・アスカ・ラングレーに対する思い入れはほとんど恋愛感情に近い。
お前もエヴァ観たんだろ?どっちがタイプだった!?
他にも女性キャラはいるのに、「処女かビッチか選べ!」と言わんばかりに、思春期ならではの二択を浴びせて来る。
にわかファンにもなれない僕はただ苦笑いしながら「高校の時は歳上好きだったから、ミサトさんかな?」と、スカして答えたら「なんかズルい」といった感じで場が白けたのを憶えている。
それからさらにエヴァに対する苦手意識が強くなり、劇場版のエヴァにも手を出さずにやり過ごしていたけど、エヴァを楽しめていない事をどこか負い目みたいに感じていたので、完結となる今回の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』公開をきっかけに、序、破、Qをアマプラで一気にチェックした。
テレビ版の内容はほとんど記憶から薄れていたから、特に劇場版と比較する事もなく、新鮮な気持ちで観賞する事が出来た。
しかし相変わらずストーリーが難解で、監督が描きたいテーマがまだよく分からない。
作品を楽しむ要素として、ストーリーの明解さと斬新さはかなりのウェイトを占めると思う。
エヴァは画で表現される情報量も多く、予備知識を入れて解像度を上げないと全貌解明は難しそうだった。
ただシンジのナイーブな精神世界に見える母親の喪失体験や父親との確執の中に、この作品のメインテーマがある気はしていて、とにかくこのモヤモヤを今回の作品が解消してくれる事を望んでいた。
不安と期待の中鑑賞した巨大スクリーンに納得の行く答えはちゃんとあった。
エディプスコンプレックス。
物語の王道であるこの構造が壮大なSFの中にしっかり隠れていた。
愛する人を失ったショックで、世界と息子の存在を否定してしまった碇ゲンドウ。
その罪を息子のシンジが代わりに背負い、償う事で世界を再生させる神話。
それがエヴァンゲリオンのテーマだとようやく理解した。
タイトルの頭につく「シン」は、罪を意味する「SIN」だと僕は解釈する。
人間が作る物語の構造自体はギリシア時代に出尽くしていて、現在まで世に出ている作品の中で厳密にオリジナルだと言える作品は一つもない。
今後何年経っても、人類がホモサピエンスとしての精神構造をアップグレードしない限り、新しい物語の構造は生まれないだろう。
いかに優れたクリエイターであろうと、新しく更新出来るのは舞台背景、キャラ、ストーリーくらいだ。
その制約の中でどれだけ斬新で独創的な面白い作品を作れるか?
ほぼ全てのクリエイターにとってそれが課題になる。
映画、小説、漫画にしろ、物語の構造があっさりとバレてしまうような作品は、過去にあった作品の模倣としてオリジナリティを疑われ、すぐに飽きられる。
だからといって目の肥えたマニアばかりを相手に作品を作れば、おそらくその産業はいずれ廃れると思う。
だから世間に酷評されても飽くなきチャレンジ精神を持って作り続ける事が出来るクリエイターには頭が上がらない。
庵野監督が明確な意図を持ってこのエディプスコンプレックス構造を巧妙に隠していたのか、それとも無意識にこのテーマで作り続けて来たのかは分からないけど、今作まですごく丁寧に扱って来たのは間違いない。
大満足の仕上がり。
破局を逃れて復興する町や工場地帯のノスタルジックな情景は、庵野監督の原風景であり、ピアノと知識しか愛せなかった碇ゲンドウの回避的な精神世界は、監督自身の精神世界をそっくり投影したものであると僕は思う。
エヴァは監督自身が長年悩み続けて来た心の問題を壮大なSFとして昇華する試みであり、神(母親)に愛される権利を巡って人類(息子)と使徒(父親)が争う寓話。
現実的に回避型人類が抱えている贖罪意識を、共感型人類が救う物語でもあるような気がする。
人が物語を紡ぐのは、人、物、世界との愛着形成の欲求を表現したいからかもしれない。
僕が創作や表現をするのも、この世界や人となんとか繋がりを持つためだ。
だからエンディングの晴々しいシンジの姿を確認する事が出来た時、僕は観賞後に物凄いカタルシスを得る事が出来た。
そしてやっと正式にエヴァのファンになれる気がして喜びでいっぱいになった。
今作でエヴァは終わりを迎えたけど、僕のエヴァはこれから始まる。過去作を振り返って考察しながら、まだまだ楽しむつもりでいる。







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