哲学・思想

モテトル博士の異常な恋愛学

投稿日:2021-05-15 更新日:

僕の名前はオトル。
24年間彼女がいない非モテ男子だ。
先日も好きな女の子に告白して、あっさりとフラれてしまった。
そこで最近僕の家の近所に「モテ」の研究をしている学者の先生が引っ越して来たから、僕がモテない悩みを相談してみる事にした。
モテトル先生、こんにちわ
ああいらっしゃい、君が女子にモテないオトル君だね
はい、そうです。さっそくですが先生、モテについていろいろ教えてください!
よろしい。男女にとって「モテ」は永遠のテーマだからね。モテない人生はさぞかし辛かろう
先生、僕はどうやったら女の子にモテますか?
オトル君、君にとって実に残酷な話になるのだが、まず異性にモテるかどうかは遺伝子的要因で大半が決まってしまう
遺伝子的要因ですか?
そうだ。顔、ルックス、性格、金、権力など、人がモテる要素はいろいろある。ところがその要素を持てるかどうかは、その人が生まれ持った遺伝子情報の優劣による。優秀な遺伝子を持つ者は大した努力や苦労をせずに異性にモテたりするが、劣性な遺伝子を持って生まれた者は、環境による後天的な努力次第でしかモテる事が出来ない。しかしその努力する能力があるかどうかも、遺伝子によって既に決まってしまっている
え?じゃあ僕はどうすればいいんですか?
オトル君、正直のところ、君の遺伝子はモテに関しては非常に劣性だと思う。女性が好むイケメンではないし、性格も引っ込み思案でナイーヴなところがある。裕福な家の生まれでもないし、君がこれから女性にモテるには改善すべき点が多すぎる。巷にあるモテのノウハウやテクニックを学んでも、平均的な男子に劣る君がモテるようになる保証はまったくないよ
そ、そんな!ひどい!
ショックだろうが、現実はそんなものだ。人生を充実させるうえで、異性にモテる事は非常に重要だ。しかしそればかりが人生じゃない
じゃあ僕は一体どうすればいいんでしょうか?
モテたいという願望は人間の本能だ。まずは恋愛の本質を知って、モテたいという願望が示す潜在意識を明確にするのがいいだろう。そうすれば、たとえモテなくても、合理的な疑似恋愛行為でモテている状況を作り出す事は出来る
恋愛の本質って何ですか?教えてください、先生!
よろしい。では多少長くはなるけど、恋愛の本質についてレクチャーしよう
お願いします!
恋愛の本質は、男女が子孫を残すための生殖行為に他ならないんだよ、オトル君。人間誰しも異性にモテたいと思うのは、生殖本能があるからだ。彼氏彼女なんていらない、結婚も興味がない。そう言って恋人を作らず、恋愛にそっぽを向く人たちも、この生殖本能がある限り、本心では異性と恋愛がしたいと思っている
なるほど
人間が本能的に行っている生存と生殖の戦略は男女によって違うんだ。少し難しい説明になるが、男女の異なる性ホルモンが脳と体に作用して、人間の性欲や性衝動を無意識にコントロールしている。男は男性ホルモンであるテストステロンにより、コミュニケーション中枢が破壊され、性及び攻撃中枢の細胞が増えるように遺伝子設計されているんだよ。だから思春期以降はあらゆる事を性的に解釈してセックスの事しか考えられなくなる
そうなんですね
そして女性はというと、女性ホルモンであるエストロゲンによりコミュニケーション能力が発達し、他者の心を読み取る共感力が強くなる。男性はとてつもなく強い性欲を、女性はとてつもなく強い子供への愛着を持つように遺伝的に設計されている。男女が互いに、自分たちの本能的なニーズを叶えるための行為が、恋愛と呼ばれるものなんだよ。ロマンを壊すようで申し訳ないが、恋愛の本質は生殖行為であり、好きな人と食事をしたり、デートがしたいなどというのは、生殖行為にたどり着くための付属的な快楽でしかないのだよ
う~ん、納得行くようで、なんとなく腑に落ちない話ですね
そうだな。恋愛を素敵なものだと思いたい人たちには受け入れ難い事かもしれない。でも過去人類はその遺伝的な設計のおかげで生存に厳しい環境下を生き延び、子孫を残して社会を発展させて来たのだ。生存と生殖はトレードオフだから、生き残る事が出来なければ遺伝子を残す生殖行為にたどり着く事は出来ない
でも今は昔にくらべて生存しやすい社会ですよね?
そうだ。だから現代の先進国社会のように、物質が豊かで個体の生存が容易な環境では、現代人の最大の関心は生殖行動に繋がる恋愛や性愛になってしまうんだ
なるほど
特にまだ親の庇護にある若いうちは結婚をあまり意識していないから、男女共に個人の性格や能力に関係なく、外見の魅力だけで相手に好感を持ち、恋愛対象にする傾向がある
ああ…やっぱりイケメンの方がモテるのかぁ
モテるためには、男女共に容姿が良い方が有利なのは当然だが、結婚を意識する大人の恋愛になると、それよりも重要になるのは女の若さと男の金、経済力になる。若い頃に美人だった女性でも、歳を取ると次第にモテなくなる。そして若い頃に美男子だった男性も、失業したり、低収入だったり、社会的ステータスがないと、歳を取った時にまったく異性に相手にされなくなる傾向があるんだ
イケメンでもないし、お金もない僕にはもうどうしようもないですね、トホホ…」
進化論的に解釈すると、男にとって女の若さが重要なのは、妊娠の確率が高く、自分の遺伝子を残しやすくなるからで、女にとって男の経済力や社会的ステータスが重要なのは、子供の養育と生活に必要な資源を豊富に提供してくれる確率が高くなるからだ
なるほど
だからモテないと、男女共に生物的にも社会的にも、自分は無価値な存在だと思い悩むようになってしまう
今の僕がまさにそうなんですけど
その自己無価値感が生むフラストレーションは計り知れない。人はそのフラストレーションを解消しようと、時に自分の人生を犠牲にしてでも、社会的に何か大きな事を成し遂げようと躍起になったりする。フラストレーションが大き過ぎると、凡庸な人生では納得出来ず、極端な事をしないと自己無価値感との帳尻が合わないと思ってしまうのだ
具体的にはどんな事ですか?
たとえば自分の才能を見極めずに芸術家やアイドルになって有名になる事を望んだり、計画性のない無謀な企業や、スピリチュアルにハマって宗教的な革命家を目指す者なんかもいる。夢や目標を持って努力するのは良い事ではあるが、非モテというコンプレックスを解消するために設定した夢や目標は、結果が出ないと自己無価値感が増して、生きる事が更に苦しくなったりするんだ
僕も今の自分が不甲斐なさ過ぎて生まれ変わりたいと思う事がよくあります
モテなくても高収入や資産があって社会的に成功している人はたくさんいるが、モテない人は結局色事に狂ってお金を散財して悲惨な人生を迎えたりする。特に男は異性にモテないと他人への攻撃性が強くなり、社会的状況が不穏なものであれば、感情を抑制出来ずに自暴自棄になって無差別殺人を起こしたり、第三者の思想に感化されて自爆テロを起こしたりする可能性も出てくる。イスラム教の過激派は非モテの若者を洗脳してテロや紛争の前線に立たせている事を知っているかね?イスラムの教えには聖戦を戦い命を落とした者は至福の天国へ行けるとある。そこでは豊かな果物が絶えることなく、永遠の若さを保つ事ができ、泥酔しない酒を味わいながら、永遠に汚れない処女の配偶者を持つことが出来るのだ
夢のような話ですね。羨ましい…
男なら誰でもそう思う。だから現世でモテる事なく、不甲斐ない人生を送った非モテな男が来世に期待して自爆テロに志願するんだ。自分の努力ではどうする事も出来ない現実に打ちのめされた時、人は生まれ変わって理想的な世界へ転生する話を好んだり、信じるようになる。異性にモテないという問題はそれくらい切実なものなんだよ
先生の話はよくわかります。だから僕みたいにモテない人はこの先一体どうやって生きて行ったらいいんですか!
現在世界の人口は70億人。いくら生殖欲求と生殖行為が人間の本能だとしても、これ以上人類が増える必要はない。むしろこれ以上増えれば地球の生態系が崩れて、結果人類は滅びる可能性すらある。その危機的状況の現代にとって、異性にモテてて子孫を残したいという欲求や願望は、たとえ本能であっても、些か理性に欠けた我儘な願望であると私は思う。現代に必要なのは、本能的な欲求や願望を合理的な手段で昇華する事だ。そしてその手段は既にある
それは何ですか、先生!教えてください!
それはアダルトや風俗産業だ。非モテにとってアダルトや風俗は合理的に生殖欲求や行為を実現出来る最適なものだ。非モテを苦に自暴自棄になって自分の人生や他人の人生を破壊するくらいなら、アダルトや風俗を積極的に利用する事を私は君にオススメする
…ふ、風俗ですか
そうだ。行ったことはあるかね?
ないです。興味がないわけじゃないんですが、なんかその…不純っていうか
なるほど不純か。君はなぜ風俗が不純だと思うのかね?
う~ん、愛のないお金だけの肉体関係だからでしょうか?僕は好きな子とそういう関係にはなりたいので、不特定多数の人を相手にする風俗はちょっと抵抗があります
では仮に君の好きな女の子が風俗で働いていたとしたらどうだ?君にしてみれば好きな女の子と肉体関係が持てる絶好のチャンスだぞ。彼女にその気がなくてもお金を払えば相手をしてくれる。それでも君は行かないのかね?
「……」
どうなんだ?
正直行きたい気持ちはありますけど、でもやっぱり相手の合意がないので不純だと思います
ではもしその子がお金に困っていて、君が客として来てくれる事を望んでいるとしたらどうだ?行かないか?それも君にとっては不純な関係なのか?
「……」
風俗が不純かどうかは君自身の単なるこだわりではないかね?男は自分が子孫を残す相手の女性に処女性を求める本能がある。それは生まれて来る子供が確かに自分の遺伝子だと証明してくれる相手が処女だけだからだ。女性もその男性の本能に応じて処女である事に価値を置き、本命の相手に出会うまで貞操観念を高く保とうとする。だから不特定多数の相手と生殖行為をしてしまう風俗嬢やAV嬢は、女性の価値を下げる存在として、男女共に嫌われる傾向がある。世間がAV業界や風俗産業を蔑んだり、それを利用したりする事に後ろめたさを感じたりするのは、倫理的な理由などではなく、本能的な嫌悪感なのだ
そうだったんですね
本能を無理やり押さえつけるようなプライドや世間的な倫理観など捨ててしまった方がいいと私は思う。自分ではどんなに理性的な人間だと思っても本能には逆らえない。売春は世界で最も古いビジネスでもある。相手に敬意を払って丁寧に接すれば、後ろめたさなど感じなくていい。後ろめたければ誰にも言わなくていいんだ。どちらにしろ、遺伝子的に劣性な非モテである以上、君の人生は人並みにはいかない。モテる努力をするにしても、ただ意地を張ったり、闇雲に取り組むだけでは君の人生はいつか拗れて暴発する事になるだろう。望むばかりではなく、時に諦める事も肝心なのだよ
「……」
それでは不満か?非モテでも本能的にモテているのと何ら変わらない状況を作る事が出来ればそれなりに脳は満足する。恋愛の本質は生殖行為だとさっきも言ったが、その本能に忠実になり、現代社会の中にある合理的な代替行為を見つけて楽しむ事が出来れば、異性にモテない事をそんなに気にする事もないというのが私の持論だ。私たちは自分と他人を常に比較して、相対的にどちらが優秀で幸福かを競う教育を受けて来た。人並みではない非モテの君がモテを目指すというのは、非常に過酷な棘の道なのだ
それでも僕は結婚して子供が欲しいんです!
それなら結果が出るまで努力するしかない。そして自分で努力すると決めた以上はどんな結果が出ても納得するしかない。おそらく何度も失敗するし、モテている人たちやカップルに馬鹿にされたり、事ある毎にマウントを取られる事だってあるかもしれない。遺伝的にモテる能力とメンタルがないのだから踏んだり蹴ったりなのは当然だ。その覚悟が本当にあるのか?
「……」
ここで迷うという事は、君の深層心理はもう既にモテるための努力を拒否している。人間の意志などで深層心理に逆らう事は出来ない。後天的努力でなんとかすると自分で決めた以上は、もう世の中のせいにも遺伝子のせいにも出来ないんだぞ。何かのせいにした時点で君のその努力は苦労に変わり、君は世を恨み、自分自身を呪って、人生を破滅させる事になるだろう。私のレクチャーは以上だ
……わかりました。ありがとうございます
甘かった。
モテトル先生に僕みたいな男でもモテるための秘訣を聞こうと思ったのに、実際に先生が話した内容は、僕にとってただ不都合で残酷な真実だった。
僕は先生にお礼を言って静かに部屋を退出した。
モテたい!
意気消沈しながらそれから一人で街をブラブラした。
何から始めたらいいんだろう?
皆目見当がつかないまま、結局たどり着いたのは風俗街だった。
モテトル先生が言うように、たとえ好きな女性でなくても、とりあえず女性と肉体関係を持ってみる事で、自分自身に何か変化があるかもしれない。
そう思った。
後ろめたければ誰にも言わなければいいんだし。
ピンク色のネオンがギラつく一軒のお店に入ってみた。
いらっしゃいませ!
初めてなんですけど
緊張しながら受付のボーイさんにお店のシステムについて説明してもらった。
ただいまの時間でご案内出来る子はこちらになります。ご指名はございますか?
ボーイさんに促されて顔写真が貼られたパネルを見ると、どの子も可愛かった。
あれ?
偶然だろうか?
その中の1枚のパネルに見覚えがあった。
すごく似ている子?本人?
僕が告白してフラれた女の子がパネルの中にいた。
この子でお願いします!
不純な気持ちと迷いはあったけど、その子を指名した。
この先どうなるんだろう?
それは全然予想がつかなかった。でも僕は未知の体験に足を踏み出そうとしている自分にとてもワクワクしていた。







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