哲学・思想

迷子の大人にならないように

投稿日:2019-02-28 更新日:

休日にカメラをぶら下げて大阪の街を歩いていたら、天王寺の駅ビルで迷子になっている老人を見かけた。

その老人は郵便局に行きたいらしく、近くにいたデパートの店員に道を尋ねていた。

ただ老人は何度店員の説明を聞いても、「それじゃわからん、こっちはもう1時間以上も歩き続けているんやぞ!」と、声を荒げて、目的地にたどり着けない苛立ちをその店員にぶつけていた。

今の時代、スマホのGPS機能を使えば、人に聞かなくても道なんかすぐに分かる。

でもこの老人はスマホなどの機器を持っていないようで、持っていてもGPSなどの機能を使いこなせないだろう。

その場に居合わせた誰の目にも、この老人が店員に対して理不尽な怒りをぶつけているのは明らかだ。

そんな周囲の白い眼が老人に集中した事もあってか、老人の怒りはどんどん加熱していき、怒りの矛先を案内所の店員に変え、「だから郵便局はどこだ!」と怒鳴り散らしては、説明を聞くたびに「それじゃわからん!」と、ごね続けていた。

僕が見る限り、老人に道を聞かれた店員たちはみんなわかりやすく丁寧に郵便局までの道を教えていたと思う。

でもおそらく老人には店員の示す目印の建物や経路が何の事かさっぱり理解出来ないのだろう。

誰かがこの老人に付き添って一緒に連れて行ってあげない限り、僕はこの老人が郵便局にたどり着く事はないと思った。

結局老人は案内所の店員にも散々不満を言い、苛立ったままその場を去って行った。

立ち去る時の老人の顔はどうしても郵便局にたどり着く事が出来ない不安に満ちていて、老人にとって複雑すぎるデザインと構造になった天王寺駅周辺の景観を呪っているようにも見えた。

老人にとって、今の天王寺の街は不要な物や情報ばかりが溢れているんだろう。

これは単にこの老人が方向音痴だからとか、この老人に土地勘がないから迷ったという問題だけではないと思う。

老人はこの土地を開発し続ける人たちの思惑に翻弄され、さらなる発展のために意図的に重なり合った縦横無尽の導線の中で迷子になっている。

小さい頃から大阪の街が変遷する様子をずっと見て来た世代の人にとって、現在の都会の姿はきっと当人の理解を遥かに超えたものになってしまっているのかもしれない。

そこにある自分の暮らしと古き良き時代の思い出が、得体の知れない変遷を見せ続ける現代の都会に侵食されてしまうような気がして怖いんだろう。

迷子の老人に応対した店員には何の落ち度もない。

ただ人の心の行方も知らず、どんどん複雑に発展する都会のステラジーと、そんな時代の変遷に抗いたい老人のノスタルジーがぶつかってしまっただけだ。

この老人同様に、未来の僕もいつか自分の想像を遥かに超えて複雑になった世界で迷子になったりするんだろうか?

今は特に老後の不安はないけど、時代が変わることに対する不安とか、時代に変えられてしまうことに対する不安は多少ある。

だから僕はいつの世でも変わらない普遍的な物や考え方を見つけて大事にしている。

今後どんな時代が来ても変わらないもの。

それが僕の人生の羅針盤になって、僕が舵を切るべき道をしっかりと示してくれるはずだ。

迷子になった老人の行方は知らないけど、僕は迷子になっても自分で目的地にたどり着きたい。







-哲学・思想

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。

関連記事

映画『愛しのアイリーン』愛はお金で買えるのか?

あらすじ 岩男(安田顕)がアイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて久しぶりに故郷の村に帰省すると、死んだことを知らずにいた父親の葬儀が執り行われていた。42歳になるまで恋愛とは無縁だった彼がフィリピンから …

DQNな人たちに出会ったら

【DQN】 軽率そうな者や実際にそうである者、粗暴そうな風貌をしている者や実際に粗暴な者かつ、非常識で知識や知能が乏しい者を指すときに用いるネットスラング。 たまにDQNな人たちに出会う。 愛情不足に …

宮崎勤『夢の中~連続幼女殺害事件被告の告白』世間に理解されない罪

宮崎勤自身の口から彼が起こした事件の事、そしてこの世界、この社会について思う事、感じている事を話して欲しかった。 世間は彼をオタク、ロリコン、精神異常者として理解し、納得する事でしかこの事件を捉える事 …

無差別殺人のターゲットにならないために

秋葉原の歩行者天国で無差別殺人があった時、テレビのニュースを見た実家の母親が僕に電話をして来て、「お前が犯人だと思った」と冗談半分で言って来た事がある。 失礼だな、と思いつつ、母親の立場を考えてみれば …

「ひらがな」に秘められた力

日本人が昔から使っている「ひらがな(平仮名)」に関する面白い発見をした。 平らな仮の名前と書いて「ひらがな」。 この文字がこの世の現象をフラットにする。 たとえば、ひらがなで「きょうそう」。 この言葉 …

祐喜代(sukekiyo)

PROFILE

PROFILE

祐喜代(SUKEKIYO)

大阪在住

社会に属しながら世捨て人として人生を謳歌するために、思索と創作表現などをしています。

ART、写真、小説を掲載しているHPはこちら↓

ART、写真、小説を掲載しているHPはこちら↓

嗤う狐の藝術

祐喜代『星空文庫』ページ

嗤う狐のYOUTUBEチャンネルはこちら↓

ネットSHOP

SUKEKIYOオリジナルアートSHOP

『AMS』はこちら↓

https://ams.base.shop/

 

スポンサーリンク