オカルト・スピリチュアル 芸術

映画『キョンシー(殭屍)』陽が過ぎて陰が満ちる

投稿日:2019-06-30 更新日:

あらすじ

大ヒットホラー映画に出演してスター俳優として活躍したものの、今では落ち目になった上に妻子とも別れてしまったチン・シュウホウ(チン・シュウホウ)。全てに絶望した彼は、幽霊が出現するとささやかれる団地の2442号室へと入居する。そこを死に場所にしようと考えていた彼だったが、壮絶な過去を背負って生きる子連れの女性、空の棺桶(かんおけ)に固執する不気味な老女、霊幻道士といったさまざまな住民と出会う。やがて団地内にキョンシーが出現し、チン・シュウホウは彼らを相手にした戦いに引きずり込まれていく。

監督:ジュノ・マック

キャスト:チン・シュウホウ,クララ・ウェイ,パウ・ヘイチン

大好きな『霊幻道士』への追悼の意を込めて。

劇場公開は2014年だったらしい。

『霊幻道士』に対するリブート映画みたいだけど、僕個人的にこれはキョンシー映画ではない。

キョンシー映画ではなくなったキョンシー映画。

そんなものを見せられた感じ。

僕はキョンシーブームの終焉みたいなものをはっきりとは覚えていなくて、感じた事もなかった。

だからこの映画を観るまで、かつて道士役だったラム・チェンインさんと、弟子役だったリッキーホイさんがもう亡くなっている事も知らなかった。

僕が知らないキョンシーブームのその後。

忘れていたその後。

ある意味キョンシーブームの死後みたいな物語。

この物語の舞台となるアパートにはそんな死後の世界を臭わせる廃墟っぽい雰囲気が漂っていた。

住人たちにも生気がなく、彼らが発する陰の気は、いつしか僕らファンに忘れさられてしまったキョンシーブームの無念さや怨念みたいなものなのかもしれない。

キョンシーと道士は陰と陽で対になる存在。

キョンシーがいなくなれば、道士もまた必要なくなる。

物語の中で、食い扶持がなくなった道士を父に持つ眼鏡の道士が言った台詞は、そのまま香港ホラー業界の本音のつぶやきのように聞こえて陰鬱とする。

かつて道士が使っていたSF的なハイテク感を醸し出す道具も、過去の遺物として色褪せている。

道教の陰陽思想が虚構から現実に反映して、キョンシーブームが香港ホラー業界にもたらした陽の気が、ブームの終わりと共に陰の気に変わって満ち、お役御免になった眼鏡の道士のやさぐれた姿には、道士として機能していない頼りとなさとだらしなさがあって、見ている僕の不安を誘う。

甦ったキョンシーを倒すために、なんとか道士としての遺志だけは継いでいたけど、繰り出した術には血の滲む思いのような痛々しさが施されていた。

生気のないアパートでは血と炎の赤がやたらと映え、子どもがキョンシーに襲われるというタブーな演出までやっている。

これは子どもの頃にキョンシー映画を楽しんだ僕たちにはすごく不快で嫌な事だ。

『霊幻道士』当時のキャンスティングで集まった役者さんたちから漂う年月の重さと陰気さ。

そこに清水崇監督のジャパニーズホラー的演出が乗っかって、かつての面影を全部食い尽くすように徹底したダーク演出のキョンシー。

あなたたちが見たい陽気なキョンシー映画は二度と作れません

どうか一緒に弔ってください、成仏させてやってください

僕たちのキョンシーブームはもう完全に死んだのだ。

物語はかつてハンサムな弟子役だった俳優さんが首吊り自殺した後に視た夢オチみたいな結末になっていて、久しく会っていなかった人の訃報を聞いて葬儀に参加するような、そういう後味の悪さがある。

でもそれがホラー映画の醍醐味でもあるから、そういう意味ではこの映画にうまい事やられたなぁと思う。







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