あらすじ
28歳の会社員・テルコ(岸井ゆきの)は、マモル(成田凌)のことが好きになって以来、仕事や友人がどうでもよくなるほどマモル一筋の生活を送っていた。一方、マモルにとってテルコは、ただの都合のいい女でしかない。ある日、二人は急接近しテルコは有頂天になるが、突然マモルからの連絡が途絶えてしまう。
監督:今泉力哉
キャスト:岸井ゆきの,成田凌、深川麻衣,若葉竜也
僕は恋愛ドラマも恋愛映画もあまり観ない。
30歳くらいの時に付き合っていた彼女と別れてから、恋愛自体にもすっかり興味を失ってしまった感じがある。
なんとなく「いいなぁ」と思う子はいたりするけど、僕はセックスをするまで相手の事が本当に好きかどうか自信がない。
当時付き合っていた彼女の事も好きだったはずだけど、セックスをした後、実はあまり好きではなかった事に気付いた。
自分が恋とか愛だと思っていたものは性的な欲情のすり替えでしかなく、その時は取り返しのつかないような過ちを犯したような気がしてショックを受けた。
相思相愛ではなかったわけだから、ショックが大きいのは当然彼女の方だけど、僕にとってもこの事実は失恋の傷心より痛い体験だった。
彼女の方は僕とセックスをしてから、より僕への好意が大きくなったみたいだった。
だから今更「好きじゃない」とも言えなくて、その気持ちを隠しながらしばらくダラダラと付き合っていた。
「もう無理かも」とか思いながら、気付くと僕もマモちゃんみたいに都合の良い男になってしまっていた。
僕はマモちゃんほどイケメンじゃないし、追いケチャップするほど自惚れてないつもりだけど、猫背のヒョロっとした感じが醸し出すだらしなさが他人事とは思えない。
そんな罪の意識を持ちつつ、それでも自分が可愛いので、この映画を観ている時はテルコよりマモちゃんに同情する気持ちの方が強かった。
好きじゃないからデートしてもどこか上の空。
二人でいる事がいつもなんか退屈で、時には息苦しく感じる時もあった。
そしてある日、彼女と外食しながら旅行の計画を立てていた時、何かささいな事でケンカになり、彼女から「全然打ち解けてくれないよね……」と、僕の本音を見透かすような一言を言われてしまった。
自分では隠し通していたつもりだけど、たぶん最初からバレてたと思う。
彼女はずっと映画のテルコみたいな気持ちで僕と付き合ってたんだろう。
それまでは絶対にケンカしないようにしていたけど、はじめてお互いに言いたい事を言ってケンカして、それを機に別れた。
寂しい気持ちもあったけど、正直どこかホッとしていた。
他の人たちはどうなんだろう?
恋愛なんかみんなそんなもんなのかな?
理想の相手同士で付き合って相思相愛なカップルなんているのかな?
みんなどこか割り切って、理想とは違う相手と妥協して付き合ってたりするんじゃないのかな?
付き合っていても本当はどっちか一方通行の恋愛だったりするんじゃないのかな?
劇場に観に来た人たちもそれぞれ複雑な表情でこの映画を観ていた。
これまで何人か付き合ってみたけど、僕は恥ずかしながら相思相愛を実感した事なんか一度もなかった。
いつもどっちかだ。
惚れた方が惚れた相手の傘下に入り、お互いがなんとなく気を遣わないと成立しないような恋愛が多かった気がする。
映画を観ながら僕はそんな事を思った。
この映画を観ていると、恋愛にも野生動物たちの捕食関係のようなものがある気がする。
テルコとナカハラのような草食動物を、マモちゃんと葉子のような肉食動物が食べて、そのマモちゃんを雑食動物のすみれさんが食べるみたいな、恋愛における食物連鎖のヒエラルキー。
その上位にいるすみれさんはもう恋愛なんてお腹いっぱいで、不器用だからずっとお腹を空かせているテルコとナカハラの純情さを見て可哀そう、あるいはどこか微笑ましいって思っている。
でもそんなすみれさんも実は不器用で、恋愛センスがあるフリをして享楽的にしか恋愛を楽しむ事が出来ない悲しき捕食者でしかない。
「幸せになりたいっすねぇ」
そうポツリとテルコに漏らすナカハラの言葉が身に染みた。
僕も以前はテルコやナカハラのようにお腹ペコペコだったはずだけど、だんだん慣れて来てマモちゃんみたいになってしまった。
そしてこのまま行けばいずれはすみれさんのような悲しき恋愛捕食者の上位になるのかもしれない。
そういう意味でこの映画に登場する全員に僕は共感する事が出来た。
この映画を観た人はきっと登場人物の誰かに共感すると思う。
そして映画のタイトルどおり、「愛がなんだ」って心底実感するだろう。