哲学・思想 芸術

映画『不能犯』 洗脳のメカニズム

投稿日:2019-09-23 更新日:

あらすじ

大都会を舞台に立て続けに変死事件が起こり、その現場には決まっていつも黒のスーツを着た男の姿があった。その男は宇相吹正(松坂桃李)で、“電話ボックスの男”とSNSで話題になっており、とある電話ボックスに殺人の依頼を貼るだけで必ず遂行されるとささやかれていた。実際に標的は100パーセントの確率で、事故や自殺や病気によって命を落としており……。

監督:白石晃士

キャスト:松坂桃李,沢尻エリカ

人の心には、ダークネスバウンダリー(闇の境界線)と呼ばれる、意識の闇の部分がある。

それはトラウマとして記憶の淵に抑圧されている意識の界面で、不能犯の宇相吹正(うそぶきただし)はそれを踏み越えて、人間の心の深淵を操作する。

彼が繰り出す催眠術は、もうほとんど超能力と言ってもいいレベルなので、現実的にはあり得ない。

実際のところ、殺人や自殺を強要するようなレベルの洗脳は専門家でもほぼ不可能なくらい難しい。

ただ不能犯ほどの催眠術ではないにしろ、洗脳やマインドコントロールは誰の日常でも起こり得る事なので、少しだけそのメカニズムについて書いてみたいと思う。

まず洗脳やマインドコントロールを理解する上で基本となる概念として、

“変性意識” “内部表現” “ホメオスタシス”の3つを知っておく必要がある。

不能犯の犯行は、術者が変性意識を生成して相手の内部表現を書き換え、その書き換えた情報が相手の生体反応を引き起こして殺戮に至るものだ。

“変性意識状態”とは現実世界よりも仮想現実の臨場感が強い意識状態の事で、感覚を遮断した空間に長時間いたりすると、人は意識が変形して、夢を見たり酩酊したような感覚になる。

“内部表現”は脳内における世界と自我の表現を指し、神経の物理レベルの情報状態だけでなく、概念や感情などの心理レベルでの表現も含まれる。

“ホメオスタシス”は生体が一定の状態を保とうとするための恒常性機能の事で、外界と生体との情報の応酬だ。

宇相吹正の目が赤く光る瞬間に起こる現象は、この3つの概念が組み合わさって作用した結果。

洗脳する側と洗脳される側も共に変性意識状態にあり、術者はその意識状態の中で相手の脳内にある情報空間を支配し、その情報を書き換える事で相手を操作し、何らかの生体反応を誘導する。

人間の記憶は一度経験したことなら、きっかけを与えられれば臨場感をもって想起することが出来る。

実際に体験した事がなくても、映画やドラマなどの映像で疑似体験していれば想起することが出来る。

術者側は言葉やその他のトリガーによって、その時と同じ世界を相手の脳内にリアルに再現して体験させている。

人間の心理は、ある事象に関して知識がないと、恐怖が生まれる構造になっていて、知識(情報)がない状態で感覚を遮断された環境に置かれると、恐怖心が高まり相手に従いやすくなる。

ざっくりとした説明ではあるけど、それが洗脳やマインドコントロールのメカニズムだ。

洗脳やマインドコントロールを防ぐのに有効なのは、哲学。

哲学は、宇宙の存在、生命の存在、知識の存在などを突き詰めて思索するものだから、哲学を極めれば、日々の苦しみや死の恐怖も消える。

日々の苦しみや死の恐怖がない人間を洗脳するのは難しい。

映画では宇相吹正の催眠術が多田刑事にだけは唯一効かない設定になっていた。

おそらく人を信じる信念が強いキャラ設定の都合でだと思うけど、そういう人でも恐怖や不安を感じるレベルの闇の領域があれば十分洗脳される可能性がある。

哲学的思考を学んだり、洗脳に関するメカニズムを理解すると、学校や会社などの自分の身の回りの日常でも、わりと頻繁に洗脳やマインドコントロールが起きている事に気付くようになる。

観察してみるとほとんどのケースは無意識に起こっているから問題なさそうだけど、何らかの目的で意図的に仕掛けられている事に気づいた時は注意が必要。

本物は宇相吹正みたいに分かりやすいサイコパスキャラじゃない。







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