友川さんの随筆と詩を載せた文庫本。
友川さんは「まつろわぬ人」とか「どこにだしても恥ずかしい人」とか、いろいろ形容される人だけど、この本を読んで改めて思ったのはやっぱり「得体の知れない人」だ。
歌も絵も全部絶叫しているようだ。
私が私に殺される。
このタイトルの一遍にある怪談話めいたエピソードに、僕は友川さんの感性の到達点さえ見た気がする。
友川さんは秋田出身の人で、僕は秋田と山形の県境にある田舎で生まれたから、年は違えどほぼ同郷の人である。
だから友川さんが綴る詩や歌う時の方言は全然苦にならないし、ムラ社会の観念的なものに囚われて居た堪れなくなる感情とか、日雇い労働で自分自身の命をあまりにもちっぽけなもののように感じてしまう恨み辛みなんかも分かる。
友川さんの歌にも絵にも魂を感じる。
ただそこに自分の腸全部人様に見せてしまわないと気が済まないような素直さがあると思えば、「いやそれだって金のためだ」と居直る態度なんかもある気がして捉えどころがない。
酒飲んで博打ばっかりやってる事を恥じつつも、「俺には歌と絵があるし、とにがぐ真面目腐ってただ働ぐような人間にはならねど」と突っぱねる態度もある気がして、素直で自由にありたいと願う僕にはとても親近感の湧く人であると同時に、自分とはまるで違う生き方をしている近寄りがたい人でもある。
「友川さんはオレど会ったら、オレのごど飲みに連れでいってけっぺが?」
そんな事を思いながらずっと読んでた。
ダメな大人の典型みたいなふりをして、自由奔放に生き切る立派な大人。
友川さんはそう思わせてくれる人だ。
やりたいを事して、言いたい事を言ってたら、結局誰にも捉えきれない「得体の知れない人」になるのかもしれない。
もし友川さんと飲めたら、僕は飲めない日本酒も無理して飲もうと思う。
中上健次と遭った時の友川さんみたいに恐る恐る大胆にその場にいれたらいいなぁと思う。