僕が通っていた専門学校のすぐ隣は女子高だった。
美術系の専門学校だったので、屋上でスケッチなんかをしていると、隣の女子高の屋上がやたらと賑やかだったりするのがよく目についた。
女子高の屋上は僕がいる専門学校の屋上よりも高く、僕を見下ろすような形で、たまに弾けた女子生徒たちが話しかけて来た。
「ねぇ?何、描いてんの?」
「絵だよ」
「わかってるよ、あたりまえじゃん、ハハハ」とか、「うちらのことモデルに描いてみない?10万円で」とか、上空からキャッキャ、キャッキャ言ってくる。
今が一番楽しい時期である事を臆することなく年上にふっかけて来る彼女たちが眩し過ぎて、僕は話しかけられても、つい素気ない態度で返事をしていた。
「やっぱ芸術家目指す人って、なんか暗いよね、ハハハ」
彼女たちがいうように、僕は当時世間一般的な芸術家のイメージを自分に刷り込んで、繊細で神経質で、寡黙ですぐ死にそうな画家を気取っていたかもしれない。
仲間内ではわりと陽気な方だと思うけど、当時は佐伯祐三に傾倒していたりしたから、常に気分が沈んでいないと良い絵が描けない気がしていた。
そんな様子を屋上の彼女たちから揶揄われていたわけだけど、なぜか嫌ではなかった。
僕たちの屋上と彼女たちの屋上にはくっきりとした明暗があり、重く暗い雰囲気の風景画を描いていても、彼女たちが屋上にいると、上空で色が混ざり、無駄に明るい色調を絵に加えたくなったりした。
たまにスカートがめくれるくらい風が強い時もあるから、屋上での制作は楽しかった。
春になると専門学校の近所にある公園の桜が咲く。
花見がてら、僕はその風景を友達と二人で専門学校の屋上から描いていた。
女子高の屋上にも花見をしている女子高生がいっぱいいた。
「早く酒飲みたいよねぇ~」とか「ていうか、この前合コンしたばっかじゃん」とか、キャッキャ、キャッキャ言っている。
友達が公園の桜と、屋上の手すりに並んで制服のスカートをヒラヒラさせている大勢の女子高生を見ながら、「今年もピュア桜満開だな!」と、ニヤニヤ呟いた。
ピュア桜満開!
その言葉の意味は聞かなかったけど、ピッタリな表現だな、と僕も思った。