哲学・思想

花火メンヘラ

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独り暮らしが長いと、夏はただ暑いだけで、何事も億劫で雑になる。

夏の風物詩である祭りや花火大会はどこの地域でも毎年行われるけど、家族や恋人がいない独り身の僕は、近所の花火大会でも自宅謹慎を余儀なくされて、近くで鳴っている花火の音にジッと耳を澄ましながら、部屋でただ酒を飲んだりして過ごす。

それでもたまに地元に帰れば、何年かぶりに友達と観に出かけたり、家族と一緒に家の前から花火を楽しむ事が出来るから有難い。

酒とごちそうがたっぷりある座席にふんぞり返って、前回観た時からのブランクを一気に取り戻すかのようにはしゃぐ。

小さい頃の花火大会は、実家でも花火大会に出資してスターマインを打ち上げたり、出店を出したりして、とても賑やかだった。

年々出店や観に来る客の数が減ったりはしているけど、誰かと一緒に観る花火大会はやはり幾つになっても楽しい。

地元の花火大会は小規模なので、小一時間くらい打ちあがったらすぐに閉会する。

花火大会が終わればもう夏も終わり。

花火同様にそそくさと散っていく観覧客の姿を見ると、その実感が湧いてきて、なんとも侘しい気持ちになるのは僕だけじゃないだろう。

ある夏地元に帰省して、実家の前で家族と花火を楽しんでいたら、大会の終わりかけくらいに、近所に住んでいる年上の兄さんが缶ビールを片手にふらふらと歩いて来た。

今年の夏ももう終わりだねぇ

あら、どうしたの?

花火終わると思ったら、なんか寂しくなってふらふら歩きたくなったんです

その兄さんも自宅で家族と一緒に花火を観ていたらしく、夏が終わる実感に耐えられなくなったのか、一人座を抜け出して、賑やかな喧騒を求めて徘徊しているようだった。

大したごちそうないけど、ちょっと座って一緒に飲んでいったら?

いいですか?じゃあお邪魔します

僕の母親にすすめられて、兄さんも僕たちの席に混ざって一緒に飲んだ。

しんみりとしている兄さんを見るのはとても珍しかった。

兄さんはメカニックな物に好奇心旺盛なオタク気質な人で、世間に「オタク」という言葉が認知されて浸透する前からオタクをやっている人だった。

僕の実家に、まだフロッピーディスクが無い頃の古いディスクトップのパソコンがあり、それはこのオタクの兄さんから僕の父親が譲り受けたものだった。

ソフトが無いから自分でプロミングしないと、何も起動しないパソコン。

メカ音痴な父親がもらったところで使いこなせるわけがないのだが、兄さんが新機種のパソコンを買った時に、「珍しいから」という理由だけで譲ってもらったのだった。

誰もプロミング出来ないから使い道はなく、二階の寝室の日本人形の隣に、長らく無用の長物として置物にされていた。

小さい頃、僕は家に友達を呼んで、そのパソコンの電源を入れ、英数字の羅列だけが映った画面を見せて、「見ろ!これがパソコンだぞ!」と、これ見よがしに自慢していた。

これで何が出来るの?

そう友達に聞かれても「パソコンが出来る!」としか言えなかった記憶がある。

中学の時、父親が改めて自分のお金でパソコンを購入した時も、設定は全部そのオタクの兄さんにやってもらった。

インターネットはまだ無くて、僕は兄さんからもらったゲームソフトをそのパソコンで毎日プレイしていた。

パソコンはもちろん、兄さんは自転車やバイクを改造したりもする。

僕しか認めていないけど、兄さんは顔がルパン三世にどことなく似ていて、その行動もルパン並みではなかったけど、多少ヤンチャだった。

自分で改造した自転車に気を良くして、その自転車でテクニカルなウィリー走行をしながら、自宅の前のドブ川に落ちる兄さんの姿を何度も見かけた事がある。

プラモデルやラジコンにも次々と手を出し、何もないド田舎の上空にラジコンのヘリを初めて飛ばしたのも兄さんだった。

僕が小学校の頃に流行ったミニ四駆も兄さんに改造してもらえば、ぶっちぎりの速さで友達のミニ四駆に圧勝する。

ただ爆走し過ぎて僕の足では追いつかず、ウィリー走行する兄さんの如く、ミニ四駆はそのままドブ川にダイヴしてお釈迦になってしまう事も度々あった。

また兄さんはゴジラのフィギアを解体して、その内部にモーターを取り付け、頭部と手足を駆動させる芸当を見せつけたりして、僕たちを常に魅了した。

そんなデジタルでメカニックなオタクの兄さんも、IT企業に就職して所帯を持ち、髪に多少の白髪を混ぜながらすっかり落ち着いて、アナログな花火にほんの少しメンタルをやられている。

その様子が見ててとても可笑しかった。

ここで飲んでたらだいぶ落ち着いて来たから、そろそろ帰ります。じゃあまた来年ね

毎年何かが変わったりするけど、花火のようにずっと変わらずに残り続けるものもある。

次はいつ花火を観れるんだろう?

ほろ酔いで顔が赤くなったルパン三世が僕たちの座を離れ、少し俯き加減の大きな背中を見せながら去っていった。

嗚呼、もう今年の夏も終わりだな。

兄さんにつられて、僕もしばらくしんみりしながら外で飲んでいたら、また兄さんがふらふらと戻って来て、それから僕の家の前をなぜか二周していった。







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