テンション上がり過ぎて油断したというか、セクハラをするつもりは一ミリもなかったのに、結果セクハラになってしまう事が多々ある。
仙台に住んでいた頃、僕はスーパーの生鮮食品を卸す会社でバイトをしていた。
工場長と社員さんが4人、女性の事務員が2人、後は僕を含めたバイトが3人。
小規模のアットホームな会社で、作業は注文が入った食品を数量通り出荷したり入荷する簡単な肉体労働だった。
すぐに作業に慣れ、社員さんや先輩にも可愛がってもらえたので、僕は作業中よく歌を歌ったりして働いていた。
僕はカラオケが苦手で、人前で歌ったりはあまりしないけど、歌うこと自体は好きなので、独りの時はよく歌う。
お気に入りのアーティストの曲を口ずさむのはもちろん、たまに即興で思い浮かんだオリジナルソングなども歌う。
「今度合コンやるけど来る?」
同い年のバイト仲間にそんなお誘いがあった日には作業がはかどり、かなり上機嫌で歌う。
冷蔵食品を収納している冷蔵庫内は声がよく響くので、コンサート会場にでもいるような気分と臨場感で大胆に何曲も歌う。
自分の世界に入り過ぎて、「チンポ」や「マンコ」などと言った、卑猥なワードをふんだんに盛り込んだ歌なども、つい歌っている時がある。
その卑猥なナンバーは基本的にはロック調なんだけど、それは時にヒップホップ調だったり、ブルースや演歌調で歌い上げたりもしていた。
誰もいない冷蔵庫は僕の独りカラオケボックス状態である。
そんなある日僕は完全に油断していて、独り冷蔵庫で作業しながらまた卑猥な歌を歌った。
「SEX!SEX!SEX!」
そんなワードを絶叫してから、声高らかにオリジナルの卑猥なロックナンバーを歌っていたら、奥の物陰から事務員の女の子が突然姿を現した。
僕が冷蔵庫に入った時は扉が閉まっていたから、中に人がいるなんて全く思っていなかった。
もう全編卑猥なAメロ、Bメロ、サビまで歌ってしまっている。
自分的にはハスキングビーを彷彿とさせるエモーショナルな仕上がりの曲だと思っているけど、サビの卑猥なワードに関しては死ぬほどエグイ。
死ぬほどエグイので、歌詞の内容は割愛する。
事務員の女の子は何食わぬ顔して冷蔵庫を出ていったけど、がっつり視聴してしまった事は間違いなく、微かな不快感を示している気まずさを確かに彼女から感じた。
うわぁ、どうしよう?
僕は自意識過剰なので、心臓が口から飛び出しそうになった。
変態!セクハラ野郎!
確実にそう思われただろうけど、そんなつもりはなくても状況的に「違う」とは言えない。
「実はお笑い系のバンド目指してるもんで(^^♪」
目指してないのでそんな言い訳も通じないだろう。
馬鹿が上機嫌で、思いつきの歌を歌っただけの事だ。
小規模で地味な会社だけど、事務員の女の子はわりと裕福な家柄で育ちが良く、初任給でエレクトーンを買うような音楽の趣味もある。
冤罪でもセクハラである事を受け入れるしかなかった。
まだでも十八番のキラーチューンじゃなかったからマシかな? なんて思いつつ、それ以来二度と会社で歌を歌わなくなった。
若気の至りで済む話だとは思っている。