エッセイ

夜明けに米米WAR

投稿日:2020-09-19 更新日:

他人の意外な一面を突発的に知る時がある。

それは冬の北海道で、僕は派遣の仕事で士別にある製糖工場で働いていた。

名寄市にある一軒家を他の派遣社員の人とシェアして、士別の製糖工場までは、派遣会社の専属ドライバーさんが車で送り迎えしてくれる。

製糖工場の仕事は日勤と夜勤の二交代制で、毎日12時間拘束される。

出勤時間になったら、一軒家の近くにあるコンビニの前に集合して、そこから送迎車に拾ってもらう。

白いバンに、多い時で5、6人くらい乗り合わせて、一時間ほどかかる士別までの道のりを、みんなで他愛のない会話をしながらそこそこ元気にやり過ごす。

専属のドライバーさんは紺色の帽子を深く被った50代くらいの渋いオジサンで、こちらから話しかけない限り、ずっと無口に車を運転する。

その後ろ姿には人には言えない苦労を背負った人が持つ哀愁のようなものが常に漂っていて、みんなの会話を邪魔しない程度の控え目な音量でラジオをかけている様子などから、人知れず気配りが出来る繊細さなども感じた。

田中邦衛演じる「北の国から」の黒板五郎、あるいは高倉健演じる「鉄道員(ぽっぽや)」の佐藤乙松。

そんなイメージのドライバーさんのおかげで、みんな12時間も拘束される製糖工場の怠い仕事をなんとか頑張ろうという気になったりした。

でもある日突然そのイメージがガラリと変わった。

さすがに12時間も拘束されると、行きはよいよい、帰りは怠いを通り越してみんな完全に疲弊して死んでいる。

車に乗っても誰も一言もしゃべらず、座席につくなりみんな眠ってしまう。

「今日もお疲れさん」

ドライバーさんはそう言っていつも僕たちを労い、行きと同様に寡黙に徹して、ラジオもかけずに静かに運転してくれるのだが、その日ばかりは一体何があったのか!?

眠っている僕たちを叩き起こさんばかりの大音量で、急に音楽をかけだした。

それは米米CLUBの大ヒットナンバーである「米米WAR」で、静と動が引っ返るような混乱を車中にもたらした。

オーグーテンターク♪

アトランダムショー♪

ロックインテリジェンスアメーバ♪

WARビューティフォー♪

突然の出来事にみんな飛び起き、何が起こったのか分からず放心状態。

曲はラジオではなく、CDプレイヤーの方から流れていて、大音量の衝撃もそうだけど、てっきり演歌とかムード歌謡ばかり聴く人だと思っていたから、曲のチョイスにも驚いた。

僕たちは今から家に帰って寝るんです! 朝まで踊り明かすような曲はやめてくれ!

みんな無言でドライバーさんに視線を送り、そう訴えかけたけど、フロントミラーに映ったドライバーさんは独り楽しそうな笑みを浮かべて、肩でリズムを刻み、終始ご機嫌だった。

クレイジーゾーンアンド♪

ミスティータイム♪

なんだ、この状況は!

「やめて!やめて!やめて!やめて!」と僕が心の中で叫ぶと、ドライバーさんが肩のリズムで「攻めて!攻めて!攻めて!攻めて!」と返して来る。

少しでも早く眠りたいのにエブリバディセイ KOME KOME WAR!

家までの1時間、ずっとエンドレスで「米米WAR」が流れ続ける。

ドライバーさんが何年くらいこのドライバー生活を続けているのかは知らないけど、今日で限界を迎えてしまった人のような狂乱ぶりだった。

「北の国から」の黒板五郎は僕の勝手なイメージに過ぎず、「鉄道員(ぽっぽや)」の佐藤乙松も僕の勝手なイメージだった。

ドライバーさんが本当はどういう人間かなど、僕は何も知らない。

本当のドライバーさんは古き良きバブル景気の申し子で、金に余裕があれば今でも札幌とか旭川あたりの都会のクラブで朝まで踊り明かしたい石井竜也的な人なのかもしれない。

エブリバディセイ KOME KOME WAR!

しかし迷惑だ!

やめて!やめて!やめて!やめて!

攻めて!攻めて!攻めて!攻めて!

眠りを妨げられた僕らはただ放心した状態で、「エブリバディセイ!」と石井竜也が煽る度に、みんなでドライバーさんに殺意を抱いた。

家に帰ってからも「米米WAR」の残響は鳴りやまず、その日はあまり寝れなかった。

その後次第に行きの車の中も気まずくなり、みんなデタラメトークサイコレイディオ状態で、とにかく毎日怠かった。

人は見かけによらない良い教訓である。







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