あらすじ
いつだかわからない時代の、どこかだかわからない場所でのお話。
イコには角が生えていました。
角が生えているのは村中でもイコだけでした。
村のしきたりでは角の生えたこどもがうまれるとその子は、海の上に聳え立つ誰もいないお城にいけにえとして捧げられることになっており、今年はイコがお城に連れていかれる年でした。
13歳の誕生日、3人の神官に連れられお城へ向かう馬の上でもイコは暴れたりしませんでした。
自分がこれからどうなるのか大体わかっていたけど、それは自分にとって当然のことと思っていたからです。
お城に入ると中は暗くてちょっと寂しくなったけど、それでもイコは我慢していました。
やがて、お城の奥の部屋にある沢山のカプセルのひとつに入れられ、カプセルのふたが閉ざされ、神官の足音がきこえなくなり、イコはいよいよ一人きりでした。
イコは静かに目を閉じました。
すごく短ったかもしれないし、すごく長かったかもしれない時間が過ぎ、突然部屋がゆれ始めました。
イコをいれたカプセルは台座から転げ落ち、イコは部屋のど真ん中に投げ出されました。
床にたたきつけられた衝撃で気を失ったイコは、悪魔と出会い、自分が影に飲み込まれる暗くて怖い夢を見ました。
やがて夢から覚め、自分が広いお城の中に1人自由の身でいることに気づいたイコは、何処へ向かうともなく歩き出しました。
こうしてイコの小さな冒険が始まったのです。
プレイステーション2の名作ゲーム。
プレイ中、ずっと童心に帰ったような気持ちで心が癒されていた。
角の生えた少年が、手招きして少女を呼んだり、距離が離れると「おーい!」と叫んだりする。
手を引っ張って一緒に走ったり、高い場所から手を差し伸べて、少女を引き上げたりする。
「この子と一緒にお城を出る」
なぜかはわからないけど、恋心よりもっと純粋な気持ちで頑張る少年を見ていたら、小学校の時の忘れていた記憶が甦って来た。
夏休みの間だけ、近所の家に里帰りして来る都会の女の子。
名前までは思い出せないけど、同い年で、髪が自然の茶色で、僕より身長が高くて、清楚なワンピースを着ていて、都会の言葉で話す可愛い子だった。
田舎に知り合いがいないから、遊び相手は近所の僕だけ。
「ちゃんと仲良くしろよ」
母親にそう言われて、ほぼ毎日一緒に遊んでいた。
僕が「あそこ行こう」と言って手を引っ張ると、だいたいどこへでも付いてきてくれた。
僕が男の子しかやらないような危険な遊びをしようとする時は「嫌っ」とはっきり言う子だった。
角の生えた少年は、村のためにお城に連れられて来る。
少年はその理由をなんとなくわかっているようだけど、プレイヤーにはその理由がわからない。
何かを起動させる装置なのか、少年はカプセルのようなものに入れられ、偶然の故障によりそこから出て来る。
そしてお城の中で檻に囚われた少女を見つけ、その少女を檻から出してあげた。
少女は影のような魔物に追われていて、その影に見つかって捕まると、黒い大きな渦に引きずり込まれる。
角の生えた少年は少女を守るために、武器を振るって影を追っ払う。
影の魔物たちは少女の母親である影の魔女のところへ少女を連れて行こうとしていた。
母親である影の魔女はお城の主で、すごく深淵な孤独を纏っている。
お城に囚われた少女も、影の魔女の魂の器として、いずれお城の主になる運命を背負っているようだった。
少女を追う影の魔物たちはカプセルに入れられて魂になった、角の生えた少年たちの姿だと思う。
角の生えた少年はたった一人でお城にいなければならない孤独な少女の遊び相手として選ばれたのだ。
少女と一緒に永遠に城に囚われて、永遠に脱出を繰り返す。
永遠の遊び相手。
村はその生贄をお城に捧げる事で、何らかの恩恵を受けるか、災厄を免れているんだろう。
シンプルな動作と脱出だけを目的としたストーリーだけど、全容が明らかにされない奥深い世界観がずっと広がっている。
小学生だった僕にも「夏休みの間だけはずっとこの子と遊ぶ」
そういう恋心とは別の使命感みたいな純粋な気持ちが確かにあって、プレイしながらそれを思い出し、すごく癒された。
童心に帰りながら、大人の知力で謎を解く。
それが『ICO』の魅力だと思う。