芸術

マンガ『鬼滅の刃 無限城編』捨てられた王子と愛着障害

投稿日:2021-06-28 更新日:

あらすじ

産屋敷邸の在処を突き止めた無残。耀哉の命を奪うべく深夜に来訪し、お館様の緊急事態を受けた炭治郎や柱たちも続々と集結して無惨に総攻撃を仕掛ける。夜明けまで持ち込もうとするも、鬼の鳴女(なきめ)によって鬼殺隊全員が無限城へと落とされ、鬼殺隊と鬼たちの最終決戦がはじまる。

原作:吾峠呼世晴

鬼滅の刃』には、小さい頃に親と悲しい離別をしたり、親に虐待を受けたりして育ったキャラクターがたくさん出て来る。

僕は『鬼滅の刃』は深刻な愛着障害を抱えている人たちの更正と破滅の物語を描いている作品だと思っていて、親に愛されずに大人になってしまった者が、この物語の世界に仇を成す鬼と化し、僅かでも親や周囲の人間から愛情を受け取る事が出来た者が、踏みとどまって鬼と戦う。

現実的に愛着障害が要因となって起きてしまった犯罪はたくさんあると思う。

僕は人間の心について勉強するようになってから、あらゆる社会問題の根本には、この愛着障害を抱えた人たちの孤独や怒り、恨みの念などが横たわっている気がしていて、人間の内面世界の問題が、外部世界に投影された結果なのではないか?と、感じるようになった。

無限城編』は鬼の総大将、鬼舞辻無残との最終決戦が繰り広げられる回。

人を信頼する事が出来ず、仲間との絆がない鬼は常にたった一人で鬼殺隊と戦う。

鬼としてしか生きられなかった深い絶望と孤独を背負い、永遠の命と万能の強さを手に入れても心は常に愛に餓えている。

虚勢を張って、己の弱さを誤魔化し続ける鬼たちと無残の姿が痛々しく、せめて最後に救いがあればな、と思いながらストーリーを追っていた。

巨大な赤ん坊の姿で幼児化した無残が示すのは、親や周囲の人間から受け取れなかった愛と絆に餓え、それを与えてくれる存在を求めて、激しく甘えている心理だと思う。

人が大人になるには、小さい頃に親に甘えて、その愛を十分に感じる必要がある。

社会に出たら、人はもう甘えられないし、見ず知らずの他人と共存しなければいけない社会がそれを許すはずがない。

だから小さい頃にたっぷりと両親や周りの大人たちに愛情をもらい、この世界がどんな場所でも、自分を愛して守ってくれる人がいる、失敗しても帰る場所がある事を実感して、社会に出てからいろんな事にチャレンジする。

その力を授かる事なく社会に出た人たちの人生は概ね悲惨だ。

社会に出てから甘えれば「子供みたいだ」と笑われ「面倒臭いヤツだな」と蔑まれたりする。

親に甘えたい時に甘える事が来なかった人は、親や周囲の人に愛され守られている実感がないから、社会が脅威でしかない。

人との関わりがあっても、安全と安心を保障してくれる居場所は見当たらず、常にたった一人無防備な状態でこの社会と渡り合わなくてはいけない心境で生きていかなくてはいけない。

他人とって容易に出来る事が、死ぬほど難しかったりする。

社会は脅威でしかないから、人の好意より悪意を優先して感じ取るようなアンテナを張り、裏切られる事を恐れ、人に期待せず、常に警戒する。

鬼滅の刃』に出て来る鬼たちの暗い内面世界はそんな感じだと思う。

誰にも頼らずに生きていく力が欲しいと、いつも思っている。

すぐに人に頼ったり、相談する人とか、集団に同調して安心している人たちを見ると虫酸が走って、「弱い!」と馬鹿にする。

その反面、独りで生きていけるほど自分は強くない事も自覚している。

だから無残の圧倒的な強さに憧れつつ、それじゃダメだと同情もした。

どんな悲しい過去を背負っていても鬼は必ず成敗される。

ダメなものは、ダメ!

その残酷で厳しい物語の世界の様子は、現実でも変わらない。

無惨の出自は産屋敷耀哉と同族にあたり、産まれながらに病弱の身で、医者から「二十歳になるまでに死ぬ」と宣告されている。

闘病を続けるも回復の兆しはなく、医者が苦心して作った薬の効果も現れない事から、心が荒んだ無残はその医者を殺してしまう。

薬の効果はその後に出たものの、その効果は鬼になるという悲劇的なもので、強靭な肉体と健康を手に入れる事は出来たけれど、日光の下には出れず、人間の肉を食べるようになってしまった。

そして無残が鬼と化した事で、産屋敷一族には「病弱で短命の子供が生まれる」という呪いが付与されてしまう。

最悪の悲劇を背負った王子。

それが無残。

産屋敷一族のモデルは天皇家のような王族だと思うけど、無残の出自に関するエピソードは高貴な王位などにあるものが不幸な境遇に置かれ、身をやつしてさすらう貴種流離譚にあたる。

でも彼の場合は、さすらいの果てに更生して王に返り咲いたりする事はなく、恨みを抱いたまま国に仇成すダークヒーローとして覚醒してしまった。

強い被害者意識を持つ独裁者の誕生。

そんな人が国を支配したら、当然社会は悲惨な事になる。

昔は産婆さんが、貧しくて食い扶持がない家に産まれた子供や、身体に障害を持って産まれた子供をそっと殺して間引きしていた話を聞いた事があるけど、古代の天皇家も産まれた時点で身体に異常がある者や、託宣によって何か不吉な兆しがあった世継ぎを、ひっそりと殺していたのかもしれない。

確証はないけど、古事記のイザナギとイザナミの国生み神話にも、一番初めに産まれたヒルコの形が醜かったために、捨てられるというエピソードがある。

無残もそのヒルコのように病弱で短命だった事を理由に産屋敷一族に捨てられた王子だと解釈すれば、その孤独、怒り、恨みは計り知れない。

僕も無残同様、病弱な身で産まれてすぐに親と離別した。

ただ僕の場合は捨てられたわけではなく、心臓病が発覚してすぐに入院したため、幼児期に母親とのスキンシップがあまりうまくいかなかっただけだ。

3歳くらいまで入院生活をして、その後実家に入って普通に生活していたけど、母親と離別していた時の孤独感だけはすごくよく覚えている。

世界とも他人とも全く繋がっていない感じ。

真っ黒な広い海で一人だけ溺れているような感じ。

幼児病棟の看護婦が子守りをしてくれるけど、誰にも守ってもらえない不安が常にあって、夜によく癇癪を起こし、隣のベッドに寝ている子の腕を噛んだりしていたらしい。

今も何か嫌な事や不快な事があったりすると、急速に心が冷え切って何事にも無関心になってしまう時がたまにある。

基本的には他人の感情を気にして行動する方だけど、その時だけは相手が悲しもうが辛そうにしていようが、全くお構い無しで平然としている。

自分の感情が動くのを回避しようとして、相手の感情を汲み取る機能をシャットダウンしているんだろうか?

まるで鬼のようだと思う。

鬼滅の刃』を読むと、自分の中にもはっきりとそんな鬼が潜んでいる事を意識させられる。

でも僕の両親は毒親ではないし、愛されて育った実感もあるから鬼にはなりたくない。

暖かい家庭の中にあって、天涯孤独のような矛盾した感覚を持っている愛着障害。

幸いこれまで自暴自棄になっても、どこかで踏みとどまって犯罪にまで手を染める事はなかった。

愛着障害の克服はすごく難しくて、新しい学びを得ても、子供の頃に心に根付いた負の感情がそれを壊そうと、ふいに襲って来る時がある。

そんな時、表面的には落ち着いていて大人しい自分の心の中で、鬼と鬼殺隊が戦っている。

愛着障害があろうがなかろうが、他人を傷つける犯罪行為はやはりあってはならない事だから、僕は自分の中にいる鬼を殺さないといけない。

鬼滅の刃』はそんな僕にとって自分の中の鬼と戦うためのバイブルでもある。

悪鬼滅殺。

この言葉を肝に銘じて、この愛着障害をなんとか克服したい。







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