哲学・思想 芸術

『流浪人剣心最終章The Beginning』誰がために剣を振る

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あらすじ

ある夜、質の悪い男たちに絡まれた女を助けた後、何者かに襲われた剣心は返り討ちにするが、礼を言おうと追ってきた女に一部始終を見られてしまったため、そばに置くことにする。この女こそ、後に剣心の妻となる雪代巴(有村架純)。巴は、日常的に人を殺めることで心をなくしそうになっていた剣心に対し、「平和のための戦いなど本当にあるのか」と咎める一方で、ひとりの人間として包み込むような優しさでいたわる。

監督:大友啓史 

キャスト:佐藤健、有村架純

幕末の動乱期。
京都で暗躍する逆刃刀以前の剣心が描かれているエピソード。
シリーズ全編を通して剣心に纏わりついていた悲哀がより鮮明に描かれている名作だと思った。
守るはずだった恋人を不覚にも殺めてしまうシーンはもちろんだけど、「人斬り抜刀斎」の異名で畏れられる剣心ほどの侍でも、世の動乱期においては単なるコマでしかない様子が何より物悲しく映った。
誰のために振るっている剣なのか?
黒船到来のインパクトで、誰もが漠然と世の中が変わる気配や予感を抱きつつ、倒幕、佐幕に別れて、それぞれの思いを実現させようと動く幕末の志士たち。
どちらの信条も「世のため人のため」である事は共通しているのに、互いが理想とする幸福で平和な世界の形は全く違う。
新しい時代の幸福や平和の形を思い描けるのは高杉晋作や桂小五郎といったインテリ層だけで、その他の無学な志士たちは彼らのアジテートに踊らされてただ夢を見ているだけのような気がする。
誰かに夢を見せられ、その実現のためのコマとして自分の人生を捧げ邁進する。
あの坂本龍馬も剣心もその一人。
彼が人を斬る時、そこに一切の迷いはない。理想を阻む者に容赦なく、殺気立っていて荒々しい。でもその剣はまるで操り人形のように人を斬っているだけで、そこに剣心自身の意思は感じられなかった。
新時代の幸福と平和をただ信じ、自分の人生をそれに費やそうとしている悲しい暗殺者。斬り捨てた後にふと我に返り、斬った相手の苦しんでいる姿を見て迷う。
誰もが幸福で平和な世の中を願っているのに、なぜ血が流れるのか?
この矛盾を押し殺して人を斬り続けた果てに、誰もが幸福で平和な世の中など本当にあるのか?
そんな葛藤の最中、最愛の人が出来る。
つかの間だけど、人斬りでしかない剣心個人の幸福な姿も描かれていて感慨深い。
幕末に訪れた黒船のインパクトに代わり、この令和の日本にも「コロナ」という未知のウィルスが現れた。
この時代に刀を持った志士たちはいないけど、この国と世界が大きく変わろうとしている漠然とした気配や予感を抱いた人たちが、ネットを通じてこの国の将来や世界の在り方について、みんなそれぞれ自分の思いをぶつけている。
でも僕は幕末に起こった事変もこの令和の事態もショックドクトリンだと思っている。
惨事便乗型資本主義。
大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革。

戦争や自然災害、政変などの危機につけこみ、あるいはそれを意識的に招いて、人びとが茫然自失から覚める前に、およそ不可能と思われた過激な市場主義経済改革を強行する、アメリカとグローバル企業による「ショック療法」。
僕たちはそれに巻き込まれてしまった。
無学な人は専門家、有識者などのインテリ層が持つ知識に感染し、彼らが思い描く将来像を共有して、自らも危機感を持って発信する。
ペンは剣よりも強しではないけど、SNSを利用して、コロナで噴き出した社会問題に不安や憤りを感じ、マスク反対、推奨、オリンピック反対、推奨、ワクチン反対、推奨などに分断した民衆が志士の如く声高に改革を叫ぶ。
でもいつの時代も未来を思い描く事が出来るのは影響のあるインテリ層だけで、影響力も想像力もないその他大勢の人たちはその思想に追随するしかなく、「世のため人のため」と邁進したところで、そこに確固たる意思はない。
自分個人の幸福を犠牲にしてまでこの国を改革したいと思っている人はほとんどいない。
僕もこのブログで何か世の中のため人のためになればと、自分の思想を発信したりしているけど、正直誰のために書いているのかわからなかったりする。
こんな事して何になるんだろう?
そんな虚しさを感じる時もある。
もう国とか社会なんかどうでもいいから、自分や身の回りの人の幸福のために毎日何かした方がシンプルでわかりやすい。
そんな事も思う。
産業革命や情報革命を見てもそうだけど、結局社会なんか、新しい技術や道具が出来れば嫌でも変わるし、変えられてしまう。
特に武器、交通、通信、医療などの技術が進歩すれば、社会システムも個人のライフスタイルもあっという間に変わる。
そして人間の意思や政治の在り方すらもその時代の技術が作り出した状況に飲まれて追随する事を余儀なくされる。
そこに人智の及ばない地球環境の問題も加わるのだから、この先の未曾有の世界は希望だけ持っていても立ち行かないものになると思う。
環境や事情に応じてある程度の諦めも必要だろう。
自分でどうしようもない出来事はあれこれ悩んでも仕方がなく、打つ手がなければただ見守るしかない。
どんな状況になっても、咥え煙草で鳥羽伏見の戦いに参戦する斉藤一のように、ただどっしりと構えていられる男になれたらいいなぁとは思う。







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