哲学・思想 芸術

映画『光の雨』僕たちの総括

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あらすじ

CMディレクター樽見の初監督作品は、連合赤軍による同志リンチ事件を描いた小説『光の雨』の映画化だった。そのメイキング撮影を依頼された若手映画監督・阿南は快諾し、オーディションからカメラを回し始める。若手俳優たちは阿南のカメラに向かって、30年前に実在した、自分たちと同世代の革命闘志の心情がうまく掴めないことを語る。

監督:高橋伴明

キャスト:山本太郎、裕木奈江

雪山と大勢の機動隊。

急斜面にぽつんと建つ家屋からライフルを持った男の人の顔が覗き、その家屋にクレーンで吊った鉄球がぶつかる。

小学校の時、懐かしのニュース映像の番組であさま山荘事件の報道を見てから、団塊の世代が暴れたその激動の時代に強く惹かれるようになった。

安保闘争の発端からあさま山荘事件に至る一連の出来事に関する小説や映画に触れ、連合赤軍が合宿中に行った「総括」事件にたどり着いた時、僕は彼らの「総括」に、小学校の時に自分たちが陥った集団思考と同じものを見た。

【総括】 個々のものを一つにまとめること。全体を見渡して、まとめをすること

Sという同級生がいて、僕たちはこのSを中心に気の抜けない過酷な学校生活を余儀なくされた。

Sは地元の裕福な家柄の出で、エリート意識が高く、勉強もスポーツも学年トップを維持しないと気が済まないタイプの男子だった。

目立った権力闘争のようなものはなかったけど、Sはケンカも強く、自ら「大王」を名乗り、学年のボスみたいな存在として君臨した。

同じクラスの男子のほとんどはSの作った軍団に所属していて、僕はSといつもクラスが一緒で家も近所だったらから、他の軍団員よりヒエラルキーが高く、Sの側近みたいな感じで軍団内にいた。

家にもしょっちょう遊びに行っていたから、比較的仲が良かった方だと思うけど、それでも友達でいられるかどうかはSの機嫌次第だった。

軍団内でSの機嫌を損なった者はすぐに仲間から外され、イジメの対象になる。

たとえば休み時間にみんなでサッカーをして、Sのチームが負けたりすると、勝ったチームの調子に乗った者や、Sのチームで足を引っ張った者などが次の日からみんなに無視されたりした。

アイツとは絶交だ!

知らない間にそんなお触れが軍団内に回り、誰かが孤立する。

下校の途中で待ち伏せされて石を投げられたり、教科書やノートに悪口を書かれたり、ランドセルごと川に落とされたりもした。

イジメられる対象はSの機嫌次第で変わる。

僕が面白半分で考えた「ムシムシ」という遊びが軍団内で流行り、それが原因で孤立する者もいた。

ただイジメられるのは常にたった一人だけで、新しい対象者が出ると、それまでイジメられていた者が仲間に戻る事を許される。

だから僕たちはいつもSの機嫌を損なわないように、みんな過剰に気を遣って、友達なのか子分なのかよく分からない学校生活を送っていた。

連合赤軍が起こした「総括事件」も批判の対象が次々と変わる。

革命闘争の士気を高め、組織を強化するために、メンバー同士がお互いの思想や行動を監視し合い、革命戦士に相応しくない言動や行動を取った者をみんなで激しく批判する。

批判されたものは自己反省し、気持ちを入れ替えて合宿の訓練に望む。

それでもメンバーの誰かがその改心を疑えば、みんなでリンチを加え、納得するまで徹底した自己批判をやらされる。

メンバー全員、本音では自分たちがおかしな方向に行っている事を自覚しつつ、「革命成就のためだ!」と、その本音を騙し、後戻り出来ずに総括はどんどんエスカレートしていった。

自己批判のために、お互いを殴って分かり合おうとする連合赤軍を見ていたら、休み時間中に、体育館で同級生と殴り合った記憶がフラッシュバックして来た。

殴り合いで勝った方を軍団に戻してやる」

僕がSの機嫌を損ね、それまでみんなから無視されていた同級生と殴り合いで、どちらかが軍団員になるか決める事になった。

大して仲良くはなかった同級生だったけど、個人的に殴り合う理由もなく、二人で向き合った時、お互いにどうしたものか?と、戸惑った。

ただ僕もそいつも仲間外れにされてイジメられたくなかったから、戸惑いながらも渋々殴り合った。

最初はお互いに遠慮して、手加減しながら一発ずつ殴り合っていたけど、殴られる痛みを感じる度に、だんだんムカついて来て、気付いたら本気で殴り合っていた。

勝ち負けを決めないといけないから、どちらかが泣いて降参するまで殴り合いは終わらない。

無我夢中で殴り合っていたら、休み時間終了のチャイムが鳴り、決着がつかなかった。

「しょうがないな、じゃあ続きは次の休み時間だ

そうSに言われた瞬間、僕も相手も泣いてしまった。

もう殴られる痛みはマヒしていたから、殴られるのが嫌で泣いたんじゃない。

理不尽な事を押し付けるSへの怒り。

自己保身で他人を傷つけてしまうお互いの弱さ。

なによりおかしな事を「おかしい」と言えない自分の弱さが嫌で泣いたんだと思う。

でもおかしな集団に居続けるよりは、イジメられて孤立した方がまだマシなような気もした。

先に泣いた方の負けだから、お前とは絶交だ

先に泣いたのは僕だったから、僕の負けになった。

もうおかしな軍団にいなくて済む。

そう思って、ちょっとホッとした。

でも僕らが連合赤軍だったら、このままじゃ終わらなかったと思う。

雪の山の中。

足抜けしようにも、犯罪者集団として社会から逸脱している彼らに逃げ場はない。

メンバー29人中、12名も犠牲者が出た。

個々の人間性や知能がどんなに優秀でも、集団思考に陥った組織はおかしな事になる。

みんな理性を保ったまま狂気の沙汰になっていく感じがすごく怖い。

本来なら組織や集団に属していれば安心感が得られるはずだけど、僕にはそれがない。

だから僕は組織や集団に属している時の方が身の危険を感じるし、とにかく居心地が悪い。

人は簡単に狂ってしまう。

というより、狂気こそが人間の本質なんだと思っている。

自分の心の中を覗いてみれば、日々矛盾したいろんな感情が渦巻いている事に気づく。

一人の人間に対しても複雑な感情を抱いて接している。

社会性を身につけて、みんなと仲良く。

僕たちはそんな事を教わって、それに沿った努力をしているけど、むしろその方が正気じゃないのかもしれない。

その後軍団から孤立した僕は、Sに何をされても徹底的に無視した。

小学校を卒業すれば、Sは東京にある中高一貫の学校に入る。

それまでの辛抱だと思って耐えていたら、クラス替えのタイミングでSの軍団にクーデターが起こって解体した。

Sも孤立し、連合赤軍のリーダーも孤立した。

そして革命闘争も失敗に終わる。

みんな弱かったんだから当然の結果だと思う。

そして集団思考はどんな組織にも起こり得る事だから、組織にいるだけで気が抜けない。

今もどこかで「総括」は繰り返されている。

いつも読んでくれてありがとう。







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